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「QuinRose」
Last Kiss(吸血鬼パラレル、ユリアリ)

第一章 engagement

 ←ネズミの恩返し(なんちゃって御伽話、ピアリ) →常世夫婦のある一日(遙か4、アシュ千)
 昔々ではじまる物語。
 これはそんな幾多の物語の、ほんのひとつの恋物語。

 生きる証を奪うことでしか、愛することを許されない運命の男と。
 それを受け入れ、命を捧げる道を選んで生きた女と。

 ・・・・・・・これはそんな二人の、最初の物語。





 ヴァンパイア。
 その名を聞けば誰もが脅え、その姿を見たものは誰もが虜にされると言う。

 人の生血をすすり、長い年月を生き続ける化け物。
 主に若い女の血を狙って、夜の闇を動き回る・・・・・美しく、気高い、けれど残酷な・・・・・闇の絶対王者。

「・・・・・・さっさと出て行け」

 どこか耳に心地のよい低音が、けれど冷たく拒絶した口調で向けられる。
 転んだ拍子にすりむいた手の平の痛みも忘れ、少女は目の前で仁王立ちする青年に見惚れた。
 青みがかった長くて綺麗な髪が、さらりと揺れている。理知的に整った顔は、ひどく不機嫌そうに眉を顰めていたが、不思議と怖いとは思えなかった。
 ・・・・・・そして何よりも少女の目を惹きつけたのは、月光に照らされた紅い瞳と・・・・・口元からわずかに覗いた鋭い牙。

「出て行け!!今すぐに、だ!!」

 鋭く尖った声にハッと我に返る。途端、今まで感じなかったのが不思議なほどの緊張感と恐怖感に襲われ、少女は急いで立ち上がって駆け出した。
 すりむいた手の平から紅い血が流れ出たけれど、痛みは感じなかった。



「本当よ!!本当にあの塔にヴァンパイアがいたんだってば、姉さん!!」
 やや興奮気味にまくしたてる小さな妹の姿に、食事をテーブルに並べていた姉は困ったように首を傾げた。
 水色のワンピースが可愛らしい、まだ6歳になったばかりの少女の目は、未知のものに出会ったという驚きと好奇心に煌いている。普段は年の割に少し冷めた考えを持った子なのだが、さすがに今回のことは心が騒いだ様子だ。
「アリスったら・・・・・・森に一人で行ってはダメよと言ったでしょう?」
「あ・・・・・・・・え、っと・・・・・・」
「お願いだから、危ないことをしないで」
「・・・・・・・・ごめんなさい、姉さん」
 優しく諭すように叱られ、アリスと呼ばれた少女は素直に肩を落とす。
 その頭を優しくなで、「お父様には内緒にしてあげる」と姉は笑う。無邪気な笑顔を選び、アリスは笑ってみせた。・・・・・・そうすれば、姉が安心すると幼心にしっかりと理解していた。

「それにしてもアリス、ヴァンパイアなんて失礼だわ。塔に人がいたのなら、それは多分伯爵様だもの・・・・・・私達の村を守ってくださる方に向かって、ヴァンパイアだなんて言っちゃダメよ?」
「・・・・・・・・はくしゃく?え、時計塔に住む人なんていたの!?」
「ええ。時計塔は昔から、この村一帯を治めるモンレー伯爵様のお屋敷ですもの。確か・・・・・・新しい代のご当主様が、つい先日やってきたのだそうよ。村長と少しだけお話されただけで、帰ってしまったそうだけど・・・・・・もしかしたらしばらく、あの塔にご滞在なさるんじゃないかしら」
「あんな暗くて寂れたところに住むなんて・・・・・・その伯爵、よっぽど変人なのね」
「アリス?」
「はーい、ごめんなさーい」
「まったく、あなたはもう・・・・・・」

 呆れたように食事の支度に戻っていく姉の姿を見送り、アリスは小さく溜息をつく。
 姉のことは好きだ。尊敬しているし感謝もしている。母親を亡くしたばかりのこの家で、仕事にのめりこんで滅多に帰ってくることのなくなった父親に代わって家を守り、母親の代わりとばかりに妹達を慈悲深く育ててくれる。・・・・・・・・・だからこそ、心配かけたくないと「いい子」に振舞う。たまにそれが苦痛に感じることもあるけれど、姉のことを思えばそんなことも言ってられない。

(まあ、バレなきゃ心配もかけないわけだし・・・・・・・って、ずるいかな。でも姉さんに心配もかけたくないし・・・・・・コレだって・・・・・・)

 ふと思い出してポケットを探り、はっとアリスは顔色を変えた。
 ・・・・・・ない。急いでエプロンドレスのポケットを叩いてみるけれど、あるはずの感触はどこにも感じない。落とした、という考えに思いついてアリスの顔が少々青ざめる。
 目に入ったのは、左手の平に残った赤い痕。カサブタが張り付き、まだ小さな痛みが疼くそれを見つめ、アリスは小さく頷いた。落としたのなら、一番心当たりの強い場所がある。



 時計塔は、村の外れの森に囲まれたとても高い塔の名前だ。
 その独特の作りが巨大な時計を思わせるから「時計塔」というだけではなく、この塔には不思議な噂があった。なんでも、壊れた時計を置いておき、しばらくして取りに行って見ると、不思議とその時計が直っているのだそうだ。長らく誰も住んでいないような場所でそんなことが起こるから、大概のものは薄気味悪がった。
 だから時計塔は一種の肝試しの場として使われていたし・・・・・・噂の真意を確かめようと、壊れた時計を置いていく人間が多かった。置いていくならまだしも、取りにこないことも多く、塔の内部のあちこちには、よく時計が転がっていた。だから、「時計塔」。

 その時計塔に向かって、ひとり薄暗い道を少女はずんずん歩いていた。

 昼を選んできたつもりだが、うっそうと生い茂る森は日光があまり当たらない。まるで夕方のような暗さに内心少し脅えつつも、ひたすらにアリスは歩き続けた。
 彼女は前日、時計塔へ行ったのだ。時計を直してもらいに。
 噂を本気で信じたわけではなかったけれど、どうにかして直ればいいと思ったのだ。
 母親の形見の、懐中時計。
 そこまで未練があるわけじゃない。母親の形見と言われても、アリスには不思議とぴんと来なかった。けれどあの時計を姉が大事にしていたから・・・・・・どうしてか、手放してはいけないものだと思ったから。壊れたままにしておくのが、どうにも気が引けたのだ。

(姉さんは昨日から寝込んでいるイーディスの看病で手一杯だろうし、大丈夫・・・・・言わなきゃ心配かけないで済むわ。こんな道くらい、昨日も走ったんだし、怖くない怖くない!)

 女の子らしく「いい子」にしていないと姉が心配するからそう振舞ってはいるが、アリスは基本的に活発的で好奇心旺盛な部分があった。外に出れば村の少年達と肩を並べてあちこち走り回っていることや時には殴り合いのケンカだってすることなど・・・・・・・姉が知ったら、失神してしまうに違いない。
 どんどん近くなってくる時計塔の大きさに、アリスは思わずそれを見上げた。何度見ても大きい建物だ。が、ここに住みたいかと言われると遠慮したいところだった。
 昨日は玄関口くらいに入ってみたところですっ転んだところ、突然現れた変な男にいきなり怒鳴られて逃げ出したから、内部を詳しくは知らないが・・・・・・あれだけ高いと、階段の上り下りがものすごく大変そうに思う。

「っ!?」

 不意にがさりと響いた草むらの音に、アリスは思わず足を止めた。
 続いて聞こえた低い唸り声に、体が完全に凍りつく。草むらの奥で微かに光る獣の瞳が、確かにこちらを向いている。野犬か狼か・・・・・・姿は見えないが、狙われているのはわかる。
 可能性を考えなかったわけではなかったが、まさか本当に野生動物と遭遇してしまうなんて思いもしなかった。逃げなくちゃと頭の中でわかっているのに、まだ幼い少女の体は恐怖で動けなかった。
 がさっと再び草むらが動く。
 鋭く並んだ牙が飛び掛ってくる様子を想像し、アリスは咄嗟にぎゅっと目をつぶって体を固くした。


「・・・・・・・・・大人しくしていろ」


 知らない声が聞こえたと思うのと同時に、ふわりと温かい何かに覆われた。
 驚いて目を開くが、そこは暗闇だった。・・・・・・いや、違う。どうやらアリスの体を守るように、黒い布がかぶせられているようだ。
 布を通した向こうから、何かが向かってくる気配を感じた。恐ろしい唸り声に、アリスは思わず傍にあった温もりにしがみついた。
 が、その唸り声は瞬間、恐怖に脅える悲痛な声に変わる。思わず耳を塞ぎたくなる憐れな鳴き声は、やがて小さくなり・・・・・・掻き消えるように消えた。
 ふわり、と風が吹く。
 視界を覆っていた黒い布が揺れ、外の世界がアリスの目にふと映る。
 その幼い目が見たのは、干からびたミイラのような何かが崩れ・・・・・・・・はらはらと黒い灰が散っていく、そんな光景だった。

「おい、いつまでしがみついているつもりだ。さっさと離れろ、そして出ろ」

 ばさりと黒い布が払いのけられ、アリスはそこでようやく自分がマントの中に隠されていたことに気が付く。しっかりとしがみついた誰かの腰のあたりから、顔を上げる。
 そこにいたのは、ぶっちょう面をした長髪の・・・・・・・・・・

「あああああああああああああああ!!!!!昨日のヴァンパイア!!!!!!」
「・・・・・っ、うるさい!!甲高い声で突然騒ぐな、うっとうしい。これだから子供は・・・・・・」
「姉さんは否定したけど、私は騙されないんだからね、確かに見たのよ!?紅い目と牙のあなたのす・・・・がた・・・・・」

 心底嫌そうに耳を押さえてこちらを見下ろす瞳は、紫藍の色をしていて、アリスはきょとんと目を瞬かせる。昨日見た時は確かに紅だったはずなのに。
 今は穏やかに凪いだ、夜空みたいに綺麗な色だ。

「・・・・・・・勘違いだ。何か夢でも見ていたんじゃないのか?」
「で、でも・・・・・じゃあどうやって今、襲ってきた動物をやっつけたの?」
「追い払ったら勝手に逃げた。助かったんだから別にいいだろう、余計な詮索をするな」
「嘘よ、私ちょっとだけ見たもの!!干からびた動物が、嘘みたいに崩れて消えちゃったところ・・・・・・」
「いいから、それ以上余計なことは言わず、とっととここから・・・・・・・・」
「逃がすわけにもいかないんじゃない?ユリウス」

 場違いに明るい声が響き渡り、草むらを掻き分けて別の青年が姿を現す。
 真っ赤なコートを見に纏い、大きな剣を持っている。爽やかな笑顔のまま近づいてくる青年に、ユリウスと呼ばれた男が少し表情を険しくした。

「・・・・・・・まだ物もわからない子供だ。放っておけ、どうせ誰も信じない」
「ん~、そうかな?ただでさえユリウスは村人から変人だとか人間離れしてて怪しいだとか思われてるんだからさ、気をつけるに越したこともないと思うけど。噂って意外と馬鹿にならないもんだよ?危険の目は、潰しておくに限ると思うけど」

 どこまでも明るく爽やかに告げられた言葉の裏にある殺意を感じ取り、アリスは体を強張らせた。
 ちらりと向けられた紅い瞳に、本能的な恐怖を覚えた。まるで空洞だ。浮かべている表情も言葉も明るいのに、この人は何も感じていないのだとわかる。子供心に、とても怖い人だと直感した。

「必要ないと言っている。村に来た早々から問題が起こる方が面倒だ。余計な面倒を起こすな。そこのお前も・・・・・とっとと村に帰れ!そして二度とここに近寄るな」
「いくら小さな子供だからって侮るのはよくないよ。人間にバレたら、その人間を殺すか記憶を消すかそれとも仲間にするか・・・・・それがルールだろ?ユリウスが破っちゃ、他の奴らに示しがつかない。それにさ・・・・・・」

 仮面のように張り付いた笑顔が、アリスに向けられる。
 紅い瞳がアリスを捕らえる。
 ただそれだけで、アリスの体は縫いとめられたように動けなくなる。さっき獣に狙われたときと似た感じだけれど・・・・・・感じる恐怖感はそれと比べ物にならないほどだ。


「俺・・・・・腹減ってるんだよね。食べていいかな、この子」


 天気の話をするのと同じような調子で告げられた言葉に、アリスの体が震え始める。
 紅い瞳が近づく。
 異形と呼ばれる瞳の色だ。血の色の瞳を持つものは、異形だと言われている。血を欲する本性が、瞳の色に現れてしまっているのだ・・・・・・と。
 青年の手がアリスの手をとる。それはまさに、忠誠を誓う騎士のような。けれどもこれは、そんなにロマンチックな情景なんかじゃないとアリスも気が付いていた。

「いい加減にしろ、エース。こんな小さな子供を食ったところで、意味などない」
「ええ?そうかな。腹の足しにはなるし、ユリウスのことがバレないし・・・・・・意味はあると思うけど。それにさっきからすごく・・・・・・おいしそうな匂いがする」

 カサブタのはりついた手の平に、ゆっくりと舌が這わせられる。
 その何ともいえない感覚に、アリスの目から涙が零れた。どうしようもない恐怖に声も出ない。助けてとみっともなくわめくことも、抵抗することもできないまま・・・・・・目の前で嗤う獣に牙をつきたてられるのを、脅えながら待つしかできない。

「甘い・・・・・・すごく上等な・・・・・・血の、匂い・・・・・・・・」
「っ・・・・・・・・!!」

 ゆっくりと口が開き、その先に見えた鋭い二本の牙にアリスの恐怖はピークに達する。
 心臓が耳元でなっているかのようにうるさく鳴り響く。自分は死ぬのだろうかと思った瞬間、アリスの頭に浮かんだのは姉の姿だった。悲しそうに自分を見つめる・・・・・・大事な姉の・・・・・・・


「やめろ、エース!!」


 ぐいっと引き寄せられる感覚と同時に、腕を掴まれていた手が離れる。
 紅い瞳が離れて、再び黒に包まれる。機械油のような、ツンとした香りが鼻につく。いい香りだとは素直にいえないはずなのに・・・・・・・何故だろう、アリスは妙に安心した。

「ええ~?何でだよ、別にいいだろ。それとも何、殺すだけ?勿体ない」
「・・・・・・・・・こいつは、私の獲物だ。お前は手を出すな」
「ユリウスの・・・・・・・?」

 エースと呼ばれた男は心底意外だとでも言うように、アリスをまじまじと見つめた。
 何を言われているのかわからないまま、ユリウスの方へとただしがみつく。と、不意にユリウスがかがみ、アリスと視線を合わせた。
 藍色の瞳に今度は見つめられ、アリスはどきりとした。

「おい、お前の名前は?」
「え・・・・・・・あ、アリス・・・・・・・・アリス=リデル」
「アリス・・・・・・だな。よく聞け、アリス。私はお前の命を救った。あのままでは、お前は狼に襲われて死んでいただろう。命を救った代償をもらう権利が、私にはある。代償として、大人として認められる年に成長した時、その血と魂を私に捧げろ。その時がきたら、喜んでこのユリウス=モンレーに命を渡すと、今ここで誓え」

 言っている意味がわからず、アリスは目を瞬かせる。
 度重なる命の危機続きで、なんだか感覚が麻痺してしまったような感じだ。まともな思考回路が働かない。

「早くしろ、とっとと誓え。誓わないとお前は家に帰れないぞ?こんな薄暗い森で、頭のおかしい騎士もどきに殺されたいのか?」
「ははっ、ユリウスってばひっどいなあ~。俺はちゃんとした騎士だぜ?」
「いいからさっさと決めろ。何も選ばずここで殺されるか・・・・・・・わずかな可能性を信じて、数年の命を長らえて死ぬか・・・・・・・選べ」

 何よそれ、と言いかけた口をアリスはぐっとかみ締めた。
 そんなものを突然言われたって、選べるわけがない。死に方を選ぶなんて、そんなのどちらも嫌に決まっている。まだアリスは6歳だ。生きるだとか死ぬだとか、マジメに考えたことなどない。
 ふと、アリスの頭に浮かんだのは、やはり姉の姿だった。
 姉は・・・・・・・アリスが死んだらどう思うだろう。悲しむだろう、きっと悲しんでくれる。母親の葬式では泣きたい気持ちのはずなのに、涙を見せなかった。呆然とした父親を励まし、泣き喚く妹達を優しく抱きしめてくれた。その姉を・・・・・・また悲しませることになるのだろうか。


「・・・・・・・・わかった。約束する。大人になったら、あなたに全部あげる。私の血も魂もあげるから・・・・・・私を助けて」
「約束じゃない。これは契約だ。血の契約・・・・・魂に刻み付ける契約は、破ることは許されない」
「・・・・・・・いいわ。契約、する。あなたと」
「契約成立だ、アリス」


 ふわり、と途端に唇にふれた感触にアリスは目を瞬かせる。
 藍色の目がすごく近くにあって、目を奪われる。とても綺麗だなと思うのと同時に、自分がどうしてキスをされているのかわからずにぼうっとしてしまう。
 直後、触れ合わせただけの唇から何か冷たいものが流れ込むような感じがした。胸の奥が一瞬ずきりと痛み、すぐにそれが消える。
 静かに離された唇を呆然と見送る。何があったのかはわからないが、今のが契約だったのだとアリスは悟った。
 確かにあの時、何かを刻まれた気がした。魂に直接・・・・・・・破ることのできない、契約を。

「これでお前は私の獲物ということになる。その時が来るまでは、お前は私の所有物だ。誰が手を出すことも許されない・・・・・・・わかったな、エース」
「・・・・・・・・はいはい。ちぇ~、ユリウスの獲物ならしょうがないか。マスターの獲物には手を出しませんから、ご安心ください・・・・・ってね」

 残念そうに肩をすくめるエースの様子を、ユリウスは呆れたように見つめている。もしかして助けてくれたのだろうか、とアリスは小さく首を傾げる。
 思えば、最初に狼から助けてくれた時だって、ただ純粋に助けただけという感じがした。その後さっさと帰れだのなんだの言っていたし、エースという男のことも止めようとしてくれていたように聞こえる。もしかして意外といい人なのかもしれない・・・・・・・ひたすら言葉はぶっきらぼうで、愛想の欠片もないけれど。

「にしてもユリウスも隅におけないな~~大人になってから、お前を捧げろとか・・・・・・・や~らしいの」
「・・・・・・・・・」
「自分好みの女の子に育てるってやつ?まあ男のロマンっていうのもわかるけどさ、ほどほどにしとかないと、時計塔に住んでる伯爵はロリコンだって噂が先に広まっちゃうぜ?あっはは、その方が面白いな!!」
「・・・・・・・・・はあ。エース、お前といると本当に疲れる・・・・・・・もういい、私は帰る」
「あ、待ってよユリウス!!こんなところに置いていかれたら、俺ひとりじゃ時計塔に戻れないだろう?」
「永遠に彷徨っていてくれ・・・・・・・・アリス、お前もさっさと帰れ。もうこのあたりには近づくなよ」
「あれ?あの子、村に返しちゃうの?」
「契約したんだ、問題ないだろう。何か私に不利なことをすれば、それがすぐに私にわかるからな。所有物ということにしてあるし・・・・・・ルール違反でもないだろう」
「ふーん・・・・あ、ってことらしいから。君も迂闊なこと言わないほうがいいよ?」

 言ったら殺すから、という言外の圧力を感じて、アリスはただこくこくと頷く。
 あの赤い騎士・・・・・エースには余計なことは言わない方がいいというのを、ついさっき充分だというくらいに感じた。ユリウスの仏頂面も大分怖いかもしれないが、エースの爽やか笑顔の方が100倍くらい薄ら怖い。

「・・・・・・・・そうだ。ついでだ。これも引き取っていけ」

 背を向ける直前、思い出したようにユリウスが懐から何かを取り出す。
 ぶっきらぼうに押し付けられたそれを反射的に受け取って、アリスはそれをまじまじと見つめた。
 ・・・・・・・・・アリスが昨日落として、取りに行こうとした壊れた懐中時計。
 それが彼女の手の中、ちくたくと確かな音を立てて時を刻んでいた。

「・・・・・・・・あ、っ・・・・・・・・」

 口を開きかけた時には、すでに二人はすたすたとアリスに背を向けて歩き出していた。
 何度も何度も時計と遠ざかる背中を見比べる。

 ・・・・・・・・・・もしかして、時計塔に置いた壊れた時計が、勝手に直っているというのは。


「ありがとうーーーーーーーーー!!!!助けてくれて、ありがとうね、伯爵!!!!」


 思いっきり、アリスは叫んだ。少しだけ恥ずかしかったけれど、自由に動けるのも子供の特権だ。
 うるさいとでも言いたげに顰め面で振り返ったユリウスに、アリスは思いっきり手を振る。不思議と自然に笑顔が浮かんだ。あれだけ怖い目にあったのに・・・・・・・相手は恐らく人間ではないというのに。でも、思っていたより悪い人じゃないと思った。
 隣のエースがなにやら面白そうなものを見るような笑顔で、アリスとユリウスを見つめていた。

(なんだろう・・・・・・知りたいな・・・・・・・)

 アリスも村へと続く道へと踵を返し、歩き出す。
 手に握った懐中時計はちくたくと音を立てている。どうしてか、心が温かい。
 ヴァンパイアは怖い存在だと思っていた。闇の種族なんて、冷たい心しか持っていないんだろうと信じ込んでいた。忌み嫌い、実体もよく知らずに悪いものだと思っていたけれど。

(ユリウスのこと・・・・・・ヴァンパイアのこと、もっと知りたいな)

 それはまだ幼い少女の、純粋な好奇心。
 契約の意味も深く理解せず・・・・・・・初めて見た存在への興味と、思いがけない優しさに心許し・・・・・それが全ての始まりだと、気付きもしなかった。



End or…?
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