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「ネオロマ」
手折り華(遙か3、将望前提ヒノ望)

五章 鳳仙花 後編

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「で、久しぶりに会った感想は?」

 無遠慮な闖入者の声に横目だけで視線をくれてやる。
 粗末な格子窓から漏れ入る月明かりを肴に、ひとりで物思いに耽っていたというのに。ぶち壊しにしてくれた当人は、全く気にした様子もなく部屋に上がりこむとオレの隣に腰をおろした。

「・・・・・・・・・なんでお前がここを知ってるんだよ」
「弁慶に聞いた」

 あのクソ法師、マジで性質が悪い。
 あっけらかんとした答えに、思わず舌打ちが零れた。味方の時でも油断ならないヤツだというのに、相手に回すと本気で厄介だ。
 京の内情を探るためにアジトとして利用していた、六波羅の一角にある粗末な小屋。一部の烏と自分だけしか知らないはずの場所だが、一体どうやってつきとめたのやら。近々、場所を移動しなければならない。

「お、うまそうなもん飲んでるじゃねえか。俺にも一口」
「人の隠れ場に、土足で挨拶もなくあがりこんでくる野郎に飲ませる酒はないね」
「・・・・・・・・言うと思ったぜ。本当に冷てえな、お前」
「・・・・・・・・・・ひとつ、聞きたいことがある」

 ことり、と杯を床に置いて向かい合う。
 オレの真剣な態度に応えるかのように、将臣は笑みを消した。


「なんで、恋敵に塩をおくるような真似をした?」


 しばらくの沈黙が部屋に満ちる。
 欠けることなく光る満月のみが互いを照らす中、将臣がゆっくりと口を開く。

「その様子だと、望美はちゃんとお前に伝えられたみたいだな」
「・・・・・・・ってことは、やっぱりお前知ってたわけだ。望美がオレに何を言おうとしているのか」

 挑発的に目の前の男の口元が上がった。明確な返事はなかったが、それが何よりの答えだった。
 おもむろに伸びてきた手が、オレの横に置いてある徳利を躊躇いもなく掴む。まるでそうすることが当然とばかりにぐいっと酒を煽り、口もとを拭って男は息をついた。

「・・・・・・・・全てのことにケリがついて、平家のやつらと共に行くと決めた日。俺は望美を呼び出して、一緒に来てほしいと伝えた」

 唐突に切り出された言葉に、目を瞬かせる。
 オレの物問う視線など気にした風もなく、将臣はただ遠くを見つめるようにして格子窓の向こうにある月を眺めていた。

「こっちに残ると話したら、望美はしばらく何か考え込んでいた。じっと俯いて、ようやく顔をあげたと思ったら、迷いを捨てた目をしていて・・・・・・・・自分も、この世界に残るってハッキリと言いきった」

 ふと、あの翡翠の強い視線を思い出す。
 話すときに人の目を真っ直ぐに見つめる癖。好ましく、同時にとても厄介だった。あいつの真っ直ぐさに引きこまれそうで、全てを見抜かれてしまいそうで。
 あの揺ぎ無い瞳で、将臣には答えたのだろうか。
 自分も残る、将臣と共に行く・・・・・・・・と、一年前の彼女は答えたのだろうか。
 そう思ったら、胸が痛んだ。オレと将臣への恋心の間で少しでも悩んでくれた、それだけでいいと必死で言い聞かせたくせに。我ながら虚勢に満ちた心だ。オレが突き放すまでもなく、望美が将臣と共に行くとすでに決めていたと・・・・・・・オレのことも好きだと伝えてくれようとしていたのが、一時の迷いだったのかもしれないと・・・・・・・そんなひどく後ろ向きな思いにとらわれた途端、どうしようもなく苦しくなるなんて。

「・・・・・・・今さら、そんなことを話して、一体何の意味がある?惚気なら他所でやってほしいものだけど」
「最後まで聞けよ。あいつはな、俺とは一緒に行けないって言ったんだ」

 遮るようにして続いた言葉の意味が、一瞬わからなかった。
 格子窓の向こうを見つめていた視線が、再びこちらに向けられる。先ほどふと気がついたことだが、将臣も大事な話の時は相手の目をじっと見つめる癖があるようだ。
 だからかもしれない。何もかも違うはずなのに、どうしてか望美に自分の気持ちを探られているような・・・・・・・・・そんな錯覚に、少しだけ陥る。



「この世界で、ヒノエくんと一緒に生きてみたい。だからこっちに残ろうと思う。将臣くんとは一緒に行けない・・・・・・・・望美は俺に、そう言ったんだよ」



 見事にフラれたってわけだ。そう首をすくめてみせる将臣に、言葉を返すことができなかった。胸が、締め付けられるような息苦しさを覚える。
 今日はこんなことばかりだな、と冷静な自分があざ笑う。腹立たしいほど頭が回らない。

「望美が自分で望んだことだ。だったら仕方がねえか、と俺は諦めた。平家の連中と一緒に・・・・・・・・一人で、南に向かう船に乗るつもりだった。遠くから望美の幸せを祈っているつもりでいた。それが、だ・・・・・・・・・」

 将臣の視線に剣呑さが増した。かつて還内府と恐れられた男だけあり、その鋭さは並大抵のヤツならば威圧されてしまうほどの気迫がある。
 言いたいことはわかっている。
 オレはその後、訪ねてきた望美を突き放して逃げるように姿を消した。
 嫌ってくれればいいと嘘をついて、望美の心を傷つけたまま・・・・・・・一年もの間、オレ達は別れ別れで、言葉を交わすことはなかった。

「・・・・・・・泣けないくらい、傷ついていた。お前には他に大切なやつがいるんだって、自分なんかに本気になるわけないのにバカだったよねって、泣きそうな顔で笑うだけだった」
「・・・・・・・・・・・・そう、か」
「正直な話、そんなわけあるかって思った。望美を泣かせる元凶を許さないって、本気で俺を殺しかねない目で睨んで立ち向かってきたような男が、それ以上に好きだといえるような女を持っているようには思えない。
 だけどな、そんなことはどうでもよかった。望美にわざわざ教えてやる気にもなれなかった。失望したぜ。お前なら、望美が好きになっちまったのも仕方ないなんて思った自分がバカみたいだ。お前なりの考えがあったのかもしれないが、そんなもんはどうでもいい。ヒノエに望美は渡せない・・・・・・・・一年前、俺はそう決めた」

 その後、望美を説得するのは楽だった。この世界に残る理由を失い、どうするべきかを思い悩んでいるあいつを、俺の我侭で一緒に連れて行った。
 そう呟く将臣は、少しだけ悔いるような表情をした。

「だけど・・・・・・・どうにもうまくいかなくなった。近すぎるって、時々厄介なんだよな。付き合いが長い分、あいつの気持ちが何となくわかっちまうんだ。いつか、ヒノエのことを忘れてくれると期待していた。望美も、忘れようとしてくれていた。だけどダメだった。ふとした瞬間、望美はお前を思い出して遠い目をする。海の向こうをぼんやり眺めて、時折通る商船にお前の姿を探してる」

 将臣はきっと、そんな望美に何も言えなかったんだろう。その気持ちは何となくわかった。一年前のオレと似ている。
 愛しい女が、自分以外の男の面影を追い求めていて・・・・・・・・そこは自分が踏み込めない、もどかしくも大きな壁で。気づいていても、立ち入れないということを認めるのが怖くて、何も聞けなくなる。今、誰を思っている?と聞いてみたくても、言葉にはできない。


「・・・・・・・・・・・恋ってもんはさ、一人じゃできないもんなんだとよ」


 不意に柔らかな声で呟いた男に、オレは思わず不思議そうな視線を返す。
 ばつの悪そうに肩をすくめた将臣が、「尼御前に言われたんだよ」と小さく笑ってみせた。

「互いの気持ちを向かい合わせることが、何より大切なのに、そんなこともわからないのですか!って散々説教されてよ。けど・・・・・・・・本当にその通りだ、って思った。こういうことってさ、一人で動いたってどうしようもないことなんだ。本気で大切にしたいと・・・・・・・あいつのこと、好きだって、知りたいって思うなら・・・・・・ちゃんと、望美と話さなきゃならなかったんだ」

 恋は、一人ではできない。
 妙にその言葉が頭に残る。当たり前すぎて忘れていたことを、つきつけられた気分だ。
 今さらながら、疑問が頭を回る。オレは望美と面と向き合って話したことがあっただろうか?望美の気持ちを・・・・・・・・正面から受けとめてみようとしたことが、あっただろうか。

「俺は望美に、自分の思っていることを全部伝えた。俺の気持ち、これからどうしたいのか・・・・・・・うまく言葉にできなかったりもしたが、本音を包み隠さず話した。望美も、自分がどうしたいかを話してくれた。こっちに来ると決めたのも、この時だ。けじめをつけるために・・・・・・・俺も望美も、それぞれお前と一対一で話す必要があった」
「だから・・・・・・・・オレをわざわざ京に呼び出したってわけか」
「熊野だと、お前の方が圧倒的に有利だからな。気づかれて、何だかんだと逃げ回られても厄介だろ。弁慶に連絡をとって協力してもらったおかげで、随分うまく事が運んだ」

 ふわりと、風に乗って迷い込んだのか、夜闇に淡く輝いた花弁が目の前を過ぎる。
 オレに会いに来た、と微笑んだ望美の顔が浮かぶ。陽の下、麗しき桜雨の中で見た彼女は、思い出の中より美しく、儚く・・・・・・・・ずっと輝いて見えた。


『どうしても、ヒノエくんに伝えたいことがあったの』


 再会を果たし、しばらく他愛のない近況を二人で語り合い・・・・・・・・・ふと話題が尽きた頃、望美はそう呟いた。
 青々と広がっていた空は、いつの間にか茜色に染まり、オレはひとつの桜の木に背を預けたまま、降り続ける薄桃を見つめていた。望美の顔を真っ直ぐ見ることが、できずにいた。
 こちらに背を向けたまま、数歩離れた場所に立つその姿は、戦場で見せたあの凛々しさとは違って・・・・・・・・・今にも消えてしまいそうなほど、頼りない。

『例え・・・・・・・・・例え、ヒノエくんが私のこと好きじゃなくても。ヒノエくんに他に好きな人がいても。私は・・・・・・・・・ヒノエくんのことが好きだったよ』

 ともすれば、遠く響く六波羅の雑踏にかき消されてしまいそうな声。
 けれどオレにははっきりと届いて。
 これは、桜が一時みせた都合のいい幻想じゃないかなんて、疑ってしまう。

『将臣くんが好きだろうって聞かれた時、私は何も答えられなかった。どちらかなんて、比べられなくて。私にとってはヒノエくんも将臣くんも・・・・・・・・・すごく大切な人だから』

 望美が振り返った。
 誰よりも惹きつけてやまない、その視線でオレを見つめ。
 誰よりも胸をしめつける、その表情でオレに笑顔を見せ。
 誰よりも恋焦がれる、その声でオレに語りかける。



『だけどね・・・・・・・・・一緒にいてほしいと思ったのは・・・・・・・・これから先も、隣にいたいって心から思ったのは・・・・・・・・・ヒノエくんだけ、だったんだよ』



 ああ、あれは望美なりのけじめだったのだ。
 ようやく理解した。望美がなぜ、今さらになってそんなことを口にしたのか。
 一年前、オレが言わせようとしなかった・・・・・・・いや、聞きたくないと逃げていた、彼女自身の気持ち。望美は、過去を届けに、オレのところまでやってきたのだ。
 複雑に絡み合い、悲しみ、どうしようもないまま燻っていた、過去の恋にけじめをつけ・・・・・・・・未来をしっかりと見据えるために。


「・・・・・・・・・バカだな」


 それは、今さら大切なことに気づこうとしているオレ自身に対しての言葉。
 わずかな物思いに耽り、自嘲的に笑ったオレを将臣がじっと見つめる。何かを見極めるように、見透かすように。
 きっと、これが将臣なりのけじめなんだろう。オレに全てを話し、望美の気持ちをつきつけ・・・・・・・・その上で、オレがどうするかを見届けるため。
 本当は、一年前に望美を傷つけたオレを許してはいないはずだ。下賀茂神社で望美の文をオレに届けたのは、言動次第では望美に会わせる気さえなかったことを意味するのだろう。
 そして今も、同じ。


「・・・・・・・・オレは、熊野別当、藤原湛増。この身はすでに、熊野に捧げると決めている。いくら愛しい女であろうと、全てをやることはできない。一番に・・・・・・・・考えてやることが、できない」


 挑む視線をしっかりと受け止め、オレは言の葉を音にのせる。揺ぎなく響く、本心からの言葉。
 将臣が、静かに目を瞬かせた。唐突な言葉に驚いたようだが、言おうとしている意味は伝わったのだろう。
 これが、オレの答え。過去にだした、オレの結論。
 すでに捧げる相手がいる・・・・・・・そう、望美に言ったことは嘘じゃない。
 オレと将臣のどちらも選べない、と望美は言った。それを言うなら、オレの方がもっとひどい。オレは例え愛しい女を秤にかけようと、熊野を選んでしまうだろう。
 望美についた嘘は、唯一つ。あいつのことを狂おしいほどに愛しく想う、この気持ちを隠したことだけ。

「だけど・・・・・・・・・それもただの、言い訳にすぎなかったんだろうね」

 悔いても、時間は戻らない。
 望美も、将臣も・・・・・・・・・過去にけじめをつけ、未来に進もうとしている。それならば、同じ過去を共有するオレも、それなりのけじめを見せなければならない。

「・・・・・・・・・なんていうか・・・・・・・・弁慶にも言われたが・・・・・・・・お前見てると、昔の俺もこんな感じだったかもしれないなとか思うぜ・・・・・・・」
「・・・・・・・心外だね。他の野郎に似ているとか思われるのは」
「俺だってごめんだ」

 しばらくの沈黙を大きな溜息でやぶり、将臣は苦笑めいた表情を浮かべた。
 先ほどまでの緊張感が嘘のように消えていく。見えない壁のようなものが薄れ、将臣をずっと近くに感じた。


「明朝、南の方に帰ろうと思う」


 手にした徳利をこちらに傾けながら、将臣が告げる。
 杯に注がれた酒に軽く湿らせる程度口をつける。月光の影響か、将臣は随分と穏やかな表情をしているように見えた。

「やるべきこと、伝えるべきこと・・・・・・・全部終わったからな。向こうに帰ったら、俺は望美に求婚するつもりだ。もし、まだ俺の隣を選んでくれていたら、の話だけど」

 お前は?さあ、どうする?
 視線で問いかける言葉に、ひとつ息をつく。

「・・・・・・・・・お前こそ、望美のこと本気で好きなのか、疑問に思えてきたぜ。望美が病にかかってるなんて嘘をついてオレを煽って、再会のお膳立てまでして」
「嘘じゃねえさ。あれは病気だ、恋煩いっていうな。まさか本当にそんな病気があるとは思ってなかったが・・・・・・・まあ、弁慶の言うところの荒療治にはちょうどいいだろう、今回のことは。精神的なもんだからな。これであいつも、少しはスッキリしたんじゃねえか?」
「ふうん・・・・・まあいいけどね。それで?恋敵に助言だの手助けだのして、お前に何の利がある?」
「心配には及ばねえよ。一年かけて、それなりに口説かせてもらったからな」

 これくらいしねえと、フェア・・・・・・・・公平じゃねえだろ?
 そんな風に自信満々に笑ってみせた将臣をまじまじと見つめる。
 少し考え、無言で杯を差し出した。まだ酒の入った朱塗りのそれとオレの顔を将臣が交互に見つめ返す。


「・・・・・・・・・こういう形じゃなきゃ、オレとお前はそれなりに気があってたと思うぜ」


 きっと、こんな風に酒を酌み交わせるくらいには、気があっていたのかもしれない。
 飲めよ、と笑ってみせる。

「サンキュ」

 将臣がにやりと口もとを上げ、受け取った杯を飲み干した。





 潮騒の音が、響く。
 波に揺れる船に一人立ち、オレはじっと広い蒼海を見つめる。遠い昔、鯨を捕まえようと仲間達だけで海に漕ぎ出でたことを思い出した。
 とても無理だと大人達は口をそろえて反対していた。そんなのはやってみなければわからない、と怖いもの知らずに信じていた。その大きさを初めて目の当たりにした時でさえ、無理だと思ったことはなかった。
 感じたのは、高揚感。
 無邪気で無謀な、決意と勇気。

「オレは、手に入れてみせるよ」

 当時、弱気になる仲間達に口癖のように言っていた言葉を、再び口にのせる。



「諦めるなんて、性にあわない。」



 どうして忘れていたんだろう。
 これこそが「オレ」だ。

 理由なんてどうでもいい、と将臣は言った。その通りなのかもしれない。
 望美は将臣といるほうが幸せだろうから、だとか。会えばその手を離せなくなるから、だとか。カッコつけた理屈や難しいことを抜きに心のままに動いてしまえば、答えなんて単純だ。
 どうすればいいか、じゃない。自分が、どうしたいか。

 水平の向こう、船の姿が見えた。
 あの時よりは小さめな、けれど長旅向けのしっかりとした造りの船。
 その上に見知った姿を見つけ、オレはひとつ息を吸い込む。向こうもこちらに気がついたのか、視線が集中したのを感じた。



 先のことを考えずに、望美を手にしようと焦った一年前。
 どちらも傷つく結果になるのだと知っていながら、あいつを愛したこと・・・・・・・それを悔やんだ時もあった。二度と、こんな間違いは犯さないと決めた。

 だけど、そうじゃない。そうじゃない、だろう?
 そんなことは、オレらしくない。

 望美に会いたい一心で、とっさに駆け出していた時と同じ。
 考えなんていらない。心に嘘なんてつけない。
 手に入れるための苦悩も困難も。その先に待ち受けているかもしれない辛い日々だって。
 そんなこと気にして立ち止まるほど、オレの本気は軽くないはずだ。
 だったら心の赴くままに、自分の信じた道を突き進めばいい。



「望美―――――――――――っ!!!!!!!!」



 叫んだ声に、近づいてくる船上の姿が小さく震えた。
 南へと戻る船の上。将臣の隣で、翡翠の瞳がオレに注がれる。
 一年前、こうしてすれ違う船のまま、離れ離れになった。あの時は、気持ちを隠して「攫いにいくよ」なんて軽く笑ってみせて。

 だけど・・・・・・・・・今は。

 左腕を、伸ばす。
 そんなことをしても意味がないとわかっていながら、願うように腕を望美に差し出す。この腕を取ってほしい、と。願いをこめて。



「来いっっ・・・・・・・・!!!!!望美!!!!」



 はっと望美が息を飲む。その瞳が、切なく揺れ動く。
 オレのいる船と、望美のいる船が、交差する。


 過去に下した答えは、今さら変えられない。
 あの戦でたくさん苦しい思いをしてきた望美には、誰より幸せになる権利があるはずだ。一番に望美を想ってやれないオレだと、これから先も悲しい思いをさせてしまう。
 そう思った気持に偽りなんてない。それが望美の幸せのためになる、と思ったから、そうしたまでだ。
 だけど、それはあくまでもオレの勝手な言い分だ。

 それは、望美が望んだことだったか?

 違う。
 離れると決めたことは望美の願いでもなければ、幸せのためでもなかった。
 望美の幸せはオレが決めることじゃない。望美自身が、決めることだ。何が幸せなのかなんて、きっと望美にしかわからない。
 オレは結局・・・・・・・・・望美の幸せを考えたことなんて、一度もなかった。
 自分のことばかりで、何も考えてやれなかった。
 望美の想いに、真っ直ぐ、向き合ったことがなかった。

 過去に「けじめ」をつけようとした望美と将臣のおかげで。
 ようやくオレも、そのことに気付かされた。


『一年前、望美が願ったことは、幸せにしてもらうことじゃない。一緒にいたい・・・・・・・・ただそれだけだったぜ』


 明け方まで飲み交わした将臣が、去り際に残していった言葉が頭を巡る。
 もう・・・・・・・遅いのかもしれない。
 望美はきっと、オレを忘れるために・・・・・・・・・燻っていた思いに完全にケリをつけるために、オレに会いに来て、そして最後に想いを伝えていってくれたのだろう。
 今の望美は、これから先のことを見据えようとしている。別の新しい未来を目指そうとしている。
 もう覚悟を決めた彼女に、オレが今さら向かい合おうとしたところで、聞きいれてはくれないかもしれないけれど・・・・・・・・・手を伸ばさずにはいられない。

 もし・・・・・・・・もう一度だけ、機会をくれるのならば。
 もし・・・・・・・・まだ、オレと一緒にいたいと願ってくれるならば。





「オレは・・・・・・・・・お前と一緒にいたいんだっ!!!!!」





 未来を決めたお前自身の意思で、どうかこの手を選んでほしい。


 一瞬、将臣と視線があった。
 何を考えているか読めない目がオレを見、そのまま遠ざかる。
 ぎりぎりまで近づいた船が離れていき、望美がこちらに背を向けた。


 ―――やっぱり・・・・・・・・ダメ、か。


 諦めと情けなさに自嘲が零れると同時に、響いた水音に顔をあげる。

 少し離れた水面が泡立ち、そこに藻のように揺らめく長い髪が見えた瞬間、何が起こったかを把握するより早く、オレは海へと飛び込んだ。
 飛び込む瞬間、離れていく船の上から、笑顔で何かを叫んで手を振る将臣の姿が、視界の端に見えた。





「まったく・・・・・・・姫君はいつも、オレの想像を超えてくれるね」

 揺らめく波に身を任せながら、オレの胸に顔を押し付けて泣き続ける愛しい存在を抱きしめる。まさか飛びこむだなんて、思っていなかった。
 春も盛りとは言えまだまだ冷たい水に、腕に抱く温もりが攫われてしまわないよう、痛いくらいの力で掻き抱いた。

「っ・・・・・・ノエくんはっ・・・・・・・・ず、るいよっ・・・・・・・!!!」
「うん」
「わ、たし・・・・・・・待ってたのにっ・・・・・・・・・・・ずっと、待って、たのに・・・・・!!」
「うん」
「いっしょに・・・・・・・・いたかったよ・・・・・・・・本当は、ずっと、ずっと・・・・・」

 少しだけ体を離して、涙にくれる麗しい顔を覗き込む。
 濡れた前髪をはらってやりながら、そっと温かい雫を指で拭った。



「遅くなって・・・・・・・・ごめん」



 言えなくてごめん。
 傷つけてごめん。
 たくさんの謝罪をこめて、白い頬を包み込む。
 息のかかるほど近くで見つめた瞳は、涙に濡れていてもやっぱり綺麗で真っ直ぐだ。

「・・・・・・・・これから先も、オレはお前を悲しませたりしてしまうかもしれない。それでも・・・・・・・・オレの手を取ってくれるなら。オレを、望んでくれるなら」

 伸ばした手を、自分から飛び込んで掴みにきてくれたお前に、誓う。

 お前が本当に望むこと。
 お前の願う幸せ。

 どんなことでも、オレが叶えてあげる。
 お前の気持ちに、ちゃんと向き合おう。



「お前の望む限り、オレはお前を決して離さない」



 だから、ねえ、愛しい姫君。
 どうかどうか・・・・・・・・恋に狂った哀れな男に、攫われていただけませんか?

 願うように囁いた言葉への返事は、幸せそうな華の笑顔。

 波のゆりかごに抱かれながら、どちらからともなく唇が近づく。
 触れ合った柔らかさは、しょっぱくも甘い、味がした。





「・・・・・・・あいしてる。もう、帰さない」





 自ら望んで囚われた天女の帰る場所は、もうオレの腕の中だけ。





終わり





鳳仙花・・・「私に触れないで」「心を開く」
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