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「ネオロマ」
手折り華(遙か3、将望前提ヒノ望)

五章 鳳仙花 中編

 ←忘却に沈む(クローバーの国、ナイトメア→アリス) →好きな人を守る覚悟(遙か4、アシュヴィン&シャニ)
「島についたら待ってろよ!熊野の水軍引きつれてさらいに行ってやるぜ!」

 笑顔と軽い口調に本音を紛らわせて、精一杯手を振った。
 本気で恋した女とその愛を得たオレではない男を乗せた船がすれ違い、そして遠ざかっていく。
 彼女は海へ、オレは陸へ、互いの乗る船の行き先は、違う方向を向いている。
 今すぐにでも追いかけたい気持ちを必死で堪えて、慣れた外面の笑顔を貼り付けた。

 望美に初めて嘘をついた挙句ひどく傷つけたあの日、オレは「鎌倉にいる九郎を迎えに行く」という口実で望美達から離れた。

 共に戦ってきた仲間の門出に、九郎だけが欠席したら望美が寂しがるだろうとか、オレの早船なら鎌倉からでも間に合うとか・・・・・・・・・それは本音だけど、ただの都合いい言い訳だと自分でもわかっている。誰にも言わずにあの場を出発したのは、そういう負い目があったからだと否定できない。
 もっと言えば、間に合いたくなかったのかもしれない。望美が離れていく姿を見たくなかったかもしれない。
 けれど今こうして、静かにすれ違った二つの船の上、広大な海の上で、オレ達は別れの言葉を口にする。
 少し寂しさが込められた笑顔の九郎が、隣で同じように手を振りながら何か叫んだけれど、オレの耳には入らなかった。船の上から向けられる、何か言いたげな瞳。こうして離れ離れになろうとする最後の瞬間まで、オレを惹きつけてやまない光が、全ての時間を止める。


   す き だ よ


 届くわけがないと知りつつ、音にしないままに唇だけを動かした。
 遠ざかっていく望美には絶対にわからないし、届かないはずだ。だけどそれでいい。伝わることなんて望んじゃいない。

 ただ、幸せに  ―――  オレ以外の男と幸せになんかならないで
 オレのことなんて、もう忘れて  ―――  忘れないで

 相反する気持ちが浮かび上がってくる。きつくフタを占めたはずの想いが、溢れ出ようと胸で暴れる。
 翡翠の視線から目を外し、陸へと目を向けた。どこから吹かれてきたのか、淡い薄紅の花弁がはらはらと目の前を横切った。





 頭上を覆いつくす満開の桜から幻惑の花雪が降り注ぐ。人の心を惑わし、魅了し、感傷を誘い、記憶を呼び起こす・・・・・・・いくつもの年を繰り帰そうと、季節は巡る、その象徴と共に。
 桜舞う春が、またやってくる。

「一年ぶり・・・・・・・・だね、京の桜を見るのも」
「・・・・・・・・そうですね。応龍の加護を取り戻したおかげか、今年は桜も一段と見事に咲いているように思えます」
「ま、熊野の桜には及ばないけど」

 絶え間なく視界を掠める花弁の一枚を、軽く腕を伸ばして掴む。掌に舞い降りた薄桃は、まだ瑞々しさを保って可憐に存在を主張している。
 君は変わりませんね、と前を歩いていた黒衣の男が振り返った。穏やかだけれど、油断ならない微笑。常に何かを探り、何かを見通してしまっているような糖蜜色の読めない瞳。
 ふと、不本意ながら弁慶に忠告された時のことを思い出した。
 誰かを理由に逃げたりせず、彼女自身の気持ちを考えろと・・・・・・・・本気の恋に目が眩み、失うことばかりをただ恐れていたオレを諭したのは、血の繋がったこの男だった。

 そんなに遠くもない、けれど「思い出」として片付けられるようになってしまった日々。
 源平合戦と呼ばれる戦が終息して、もう一年の月日が経つ。
 ダキニテンの加護を失ったとは言え大きな力を未だに有する鎌倉方と、応龍が復活したことで荒廃を逃れた京の後白河院方。両者がにらみ合いを続けていることや奥州藤原氏をはじめとする他勢力の関係もあって、この世界は今、束の間の平和が保たれている。
 どこか一方でも何か変化があれば、また戦が始まりかねない、そんな危うい均衡になりたっている平和。戦に加わったことで少々の混乱はあったが、今はすっかり落ち着いて再び中立の立場となった熊野を思う。あの緑豊かな美しい土地を守るためにも、いつ何があってもいいように気をぬくことはできない。
 けれど・・・・・・・熊野別当としての冷静な判断を下す一方で、こんな穏やかな日々がずっと続いて欲しいと甘い願いを持っているのも事実だ。
 異世界から突如呼ばれ、たくさんのものを犠牲にして悲しんだ少女が、やっとの思いで導いてくれた平穏。せめて望美が幸せなまま、その天寿を全うできるまで。もう二度と剣を取らなくていい、幸せな世界に・・・・・・・笑顔で、普通の女として生きていく。そんな資格が望美にはきっとあるから。
 そんなことを思った一瞬、止め処なく降る桜景色の中に、長い髪を揺らして無邪気に笑う少女の幻を見た。


 時間は優しくて・・・・・・・・・とても残酷だ。


 儚げに霞んで消えた白昼夢に、小さく痛んだ胸を抑えて自嘲する。
 望美と別れたばかりの頃、この胸を苛む痛みは、こんなものではなかったのに。思い出さないようにと必死で戦後処理の多忙さに身を埋めて考えずにいても、ふとした瞬間によぎる彼女の笑顔や泣き顔といったものに、どうしようもないほど心乱された。
 それが、今はどうだろう。
 思い出の中に望美を見つけても、以前ほど苦しくはない。代わりに、胸に大きな穴ができたかのような空虚さが、あるだけで。
 あんなにも心焼き付けたはずの望美の笑顔さえ、いつか消えてしまいそうな儚さを持ち始めていた。

 時は全てのものをうつろわせる。痛みも記憶も、何もかも。
 望美が、少しずつ、オレの中から消えていく。

 その事実によかったと安堵する自分がいる。このまま行けばオレは、望美を諦められる。忘れ、られる。本気の恋の楽しさも苦しさも、全てを「思い出」に変えて、彼女の幸せを本心から祈りながら、オレ自身の人生を歩いていけるだろう。
 けれどその一方、どうしようもない苛立ちに駆られる。
 望美が消えていくこと・・・・・・・オレの心からさえも、消えてしまうこと。完全に消えるわけではないとわかっているはずなのに、嫌だと必死で叫ぶ心がある。好きで堪らなかったあの優しい笑顔を、繋ぎとめようと足掻いている。
 そんなみっともない心も、オレの本心なのだと気がつく度に、我ながら諦めの悪さに苦笑が零れる。

「・・・・・・・・ヒノエ?」
「ああ、悪い。ちょっと花に酔ったみたいだ」

 黙りこんだままのオレを不審に思ったのか、訝しそうな視線を向けてくる弁慶に何でもないと肩をすくめてみせる。

「さて、と・・・・・・・オレのことはいいから、いい加減本題に入ったらどうだい?」
「本題?」
「とぼけるな。このオレをわざわざ京に呼び出したんだ。あんたのことだから、いろいろと企んでるんだろ」

 ほんの数日前、弁慶が一年ぶりに消息をよこしてきたのがそもそもの始まりだ。届いた文に返事をするより早く、嫌になるくらい周到な根回しによって、自然とこちらから出向かざるを得ない状況にさせられた。
 食えない叔父の策にまんまとハマったことは非常に腹立たしいが、それよりも弁慶がそうまでしてオレを京へと呼び出したことが気になった。
 強引ながらも秘密裏に事を進めたことから見て、用があるのは恐らく「ヒノエ」としてのオレの方。
 「ヒノエ」を、京に呼び出さなければならなかった意味が、きっとある。

「・・・・・・・まあでも、何となく思い至ったけどな」
「おや、もう気がつきましたか。さすがですね」
「ついさっき、だけどね。もっと早く気がつけば、さっさとここを離れていたところだけど・・・・・・・・・・無駄なあがきはよしておこうか」

 視線を、桜吹雪の中に向ける。
 下賀茂神社。確か、初めて会ったのもここだった。こんな風流な桜並木の下ではなかったけれど、あのときも確か桜は咲いていて。
 気にかけていた神子姫様が、見惚れるほど綺麗な笑顔を浮かべたと思った瞬間、勢いよく駆けだして。彼女が真っ直ぐに向かう先に・・・・・・・・穏やかに瞳を緩ませたあいつが、立っていたっけ。


「久しぶりだね・・・・・・・・・・将臣」


 ああ、そうだ。
 あの時から、悔しかったな。
 だって、オレは、あの時初めて、望美があんなに嬉しそうに笑ったのを見たんだ。

 いとも簡単に、彼女を笑顔にしてしまう、アイツのことが、最初から羨ましかった。

 ざっと小さく土を踏む音が響く。
 一本の桜の木の陰から、背の高い男が姿を現す。
 視線がぶつかる。真っ直ぐな光を宿した目・・・・・・・・・望美とよく似た、迷いのない輝きを持つ光。


「よお、元気そうじゃねえか・・・・・・・・・ヒノエ」


 悪戯に強く吹いた春風が、桜を狂い躍らせた。



「・・・・・・・・・望美は?」

 しばらくの沈黙の後、ちらりと周囲の気配を探りながら平坦に問いかけた。
 近くに誰かが隠れている様子はない。望美も戦場に出る身として気配を消す術は身につけていたが、それでもまだまだ素人より上の域だった。どこかオレ達の様子を伺える場所に身を潜めているのなら、オレに見つけられないはずはない。
 将臣が小さく肩をすくめ、弁慶が苦笑した。聞くだろうと思った、と言ったような態度・・・・・・・・苛立つ反応だ。こいつら、やっぱり組んでオレを呼び出しやがったに違いない。

「何でそんなこと聞くんだよ?」
「どうせ久方ぶりの逢瀬を果たすんだったら、野郎より麗しい姫君相手の方がいいに決まってるだろ。何が悲しくて野郎共と桜を愛でなきゃならないんだ」
「・・・・・・・っぶ、はははっ!その言い方・・・・・・・本当に相変わらずだな、ヒノエ」
「そりゃどうも。あんたも変わってなさそうだね」

 皮肉をこめて言ってみせても、全く気にした様子もなく豪快に笑うその姿。変わったところと言えば、その笑い声が以前よりもずっと楽しげに聞こえること、だろうか。
 以前の将臣は、もっとどこか底がしれないような雰囲気を持っていた。その堂々とした態度に、何か大きなものを隠して背負っているような・・・・・・・笑っていても、楽しんでいても、ふとした拍子に緊張感を取り戻す。それはきっと、還内府として平家を支えなければという無意識によるものだったのかもしれない。今の将臣から、含んだような緊張感は感じられない。
 戦からの解放と・・・・・・・・そして恐らくは、望美のおかげ、なのだろう。
 将臣と行動を共にしていた短い時間、今と同じように心から楽しそうに将臣が笑っているのを何度か見たことがある。そんな時、必ず傍には望美がいた。

(幸せそうで何より、だ)

 自然と口につきそうになった言葉を飲み込む。今さら言っても仕方のないことを口にして、こいつらに聞きとがめられるのも面倒だ。
 自分の選択を悔やむ気はない。望美の手を離すと決めたのはオレなのだから。
 望美が誰の隣にいようと、心からの笑顔を浮かべていられる場所にいるのなら・・・・・・・・それだけでいい。

「それで?何の用があるにしろ、一人で来たわけじゃないんだろ。あの行動的な姫君が、大人しく待っているとは思えないからね」
「まあな。望美も京に来てるぜ。ここには、いないけどな」

 将臣の言葉に、予想していたとは言え、胸がざわめく。
 いる。望美が、この京に。
 言葉がひとつひとつ、落ち着かない胸に埋まっていく。それは甘い誘惑となって、オレを突き動かそうとする。
 探しに行けば、会える。そんな距離に、恋しい女が、来ている。
 今すぐにでも走り出して、彼女を探しだして、この腕に閉じ込めてしまいたい。薄れていたと思っていた恋情がフタをこじ開けようと暴れだすのを必死で堪えた。
 ああ、なんてザマだ。自分が情けなくて笑えてくる。
 望美が近くまで来ていると聞いただけで、こんなに心乱されるなんて。

「だけど、別に望美がついていくって言い出したわけじゃねえ。京にあいつを連れてこなくちゃならなかったから、連れてきた。ここに来たのは、望美のためだ」
「・・・・・・・・望美のため?」
「ああ、まあ、なんていうか・・・・・・・・・」

 そこまで言いかけ、きっぱりした物言いをすることが多い将臣が、不意に言いよどんだ。何かを逡巡するように前髪をくしゃりとかきあげ、弁慶に視線を向ける。
 その態度に疑問を投げかけるより早く、弁慶が静かに将臣の言葉を引き取った。


「病ですよ」


 一瞬、思考が停止した。
 誰が?とバカなことを問いかけようとした唇が、小さく息を飲み込む。

「望美さん、少し厄介な病を患ってしまったそうで。向こうじゃ有効な治療法がありませんでしたから、わざわざ京まで足を運んでもらったというわけです。こちらなら、僕も多少の力になれますから」
「や、まい・・・・・・・・?望美が?」
「ええ、少々荒療治にはなりそうですが・・・・・・・・・恐らく今できる最善の治療かと。ねえ、将臣くん?」
「・・・・・・・・・まあな」

 淡々と事実だけを述べる調子で、弁慶が言葉を並べていく。
 頭がうまく回らない。望美が病にかかっている、という事実だけが置き去りにされたまま・・・・・・・感情も考えも追いついてこない。
 呆然、の次にきたのが、小さな震えだった。
 冷たく、昏いものがひたひたと心に染み渡り、カタカタと手を震わせる。それが、恐怖だと気がつく前に、オレの体はすでに将臣に掴みかかっていた。


「病状は!?まさか命に関わるとかじゃないだろうな!!」


 頭の隅で、冷静なオレが見っともないマネはよせと警告する。
 だけど、この心を覆いつくそうとする冷たい闇から・・・・・・・・どうしようもない恐怖心から少しでも逃れようとする衝動が、溢れ出て止まらない。
 恐怖心が怒りとなる。それを誰かに、将臣にぶつけなければ、自分を見失ってしまいそうで、やりきれなかった。

「大体、平家が逃れた島から京までどれだけの距離があると思ってる。病人にそんな長旅をさせて、途中で何かあったらどうするつもりだったんだ!!連絡のひとつよこせば、オレが・・・・・・・・っ」
「ヒノエ」

 冷静な声で名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
 そこまでにしなさい、と弁慶が静かに言い放つ。オレより高い位置にある将臣の双眸が、驚いたように見開かれている。らしくもなく取り乱した自分の姿をそこに見つけた。
 ゆっくりと襟首をつかんでいた手を離す。自分の情けない姿をこれ以上見たくなくて、顔を背けた。

「・・・・・・・・・悪い」
「いや・・・・・・・・・まあ、ちっとは驚いたが・・・・・・・・・正直、安心した」

 軽く肩を叩かれ、思わず将臣を見る。
 ついさっき掴みかかってきた相手に対するとは思えないほど、気さくな笑みにこちらが驚く。

「一年前のことがあったから、並大抵のことじゃ容赦しねえと決めてたが・・・・・・・あんなに必死なところ見せられちゃ、仕方ねえか」

 意味ありげに呟き、将臣はすっと一枚の紙を差し出した。手習い用の半紙の一部を切り取った、小さなそれに、流麗とは言えない文字がわずかに書き綴られている。
 押し付けられるようにして反射的に受け取ったそれに目を通し、また思考が止まりそうになる。
 紙片を持つ手に、自然と力が入る。つき返すべきだと頭でわかっているはずなのに、それができなかった。


「お前が何を思って、望美から手を引いたかなんて知らないが・・・・・・・これだけは言える。お前は、今もまだ、望美が好きなんだ。冷静さをとっさに失ってしまうくらいに、あいつのこと、本気で想ってるんだろ?」
「オレ、は・・・・・・・・・」
「理屈とかどうでもいい。もっと言えば、お前の気持ちとかも俺にはどうでもいいことだ。ただ、あいつが会いたがってる。お前に、会いたいって言ってる」


 だから京まで来たんだよ、あいつは。

 くしゃりと手の中で、紙が音を立てる。
 誰になんと言われようと、会うわけにはいかない。
 近くにいると聞いただけで、あんなにも胸が騒いだのに。今会ったら、きっと抱きしめてしまう。二度と・・・・・・・・離せなくなってしまう。
 第一、今さらどんな顔をして会える?
 ひとつだけ望美に嘘をついたあの日、涙を堪えて部屋を飛び出していった姿が脳裏をよぎる。傷つけた。自惚れでもなんでもなく、オレに恋心を向けてくれていた望美を・・・・・・・・ひどい嘘で傷つけ、突き放した。

 わかっている。
 きっと、いつか、もっと時間が経てば、望美と向き合える日がくるだろう。
 この恋が消えないのだとしても、いつかは、望美と将臣の幸せを純粋によかったと思える日がくるのだろう。
 だから、今は、その時じゃない。
 今はまだ、望美と会って、言葉を交わすべきじゃない。

 わかって、いる、のに。



『ヒノエくん』



 薄れようとしていた思い出が、鮮やかさを取り戻す。
 オレの名を呼ぶ声が、何よりも恋求めた笑顔が、浮かび上がる。





                      会 い た い





 ストンとその気持ちが胸の奥底に落ちた瞬間、一年間消えることのなかった空虚さが嘘のように満たされた。
 欠けていた何かがようやく戻ってきたかのような、心地のいい重みが胸に広がっていく。

 気づけば、駆け出していた。
 将臣達に目もくれず、薄桃の雲居を走りぬけ、ただひたすらに唯一の存在に向かって。





 手に握りしめたままの手紙。
 慣れないながらに、一生懸命書いたのが伝わる文字。

『もう一度だけ、会いたい。話がしたいです』

 息が上がる。
 これだけ全速力で走ったのなんて、いつ以来だろうか。心臓の音がやかましく響き渡る。
 行くべきじゃない、と頭の隅で微かに警告する声が聞こえたが、進む両足は止まることがない。
 ダメだ、と思った。もう耐えることができなかった。
 雑踏とした人込みの中、求める姿を探して駆け回る。
 懐かしい空気。昔よりはずっと治安がよくなったと聞いているが、それでもやはり荒くれ者が集うような物騒な場所。
 あの時はそう、オレは「龍神の神子」の存在を見極めるためにここをねぐらにしていて。神泉苑で垣間見た、剣を振るう麗しき姫君に予想以上に興味を引かれ始めていて。


『あなたと初めて出会った場所で、待っています』


 そして、この六波羅で、初めて出会った。



 足が止まる。
 すっかりあがった息を整え、その姿に視線を向ける。
 六波羅の外れ、風流とはまるでかけ離れたこの場所を鮮やかに春めかせる桜のひとつに寄りかかるようにして、空を見上げる女。
 風にたなびく長い髪も、遠くを見つめるような翡翠の瞳も、多くのものを守り支えてきたその細くも強い姿・・・・・・・・・・見間違えるはずなんて、ない。

 一度、深呼吸して。
 数歩、踏み出す。
 お互いに手を伸ばしたら触れられる。そんな微妙な距離で、言葉を発した。


「こんなトコで迂闊に立っているなんて・・・・・・・用心が足りないよ?神子姫様」


 あの時の彼女は、ごろつきに絡まれていたっけ。見た目のいかつい男に臆することもせず、むしろ気丈に睨みつけて真っ向から言葉を返していた。
 今思い出しても、つい笑みが零れてくる。
 随分威勢のいい姫君だ、なんて感心してたこと、お前は知らないだろ?最初にここで会った時・・・・・・・・・いや、それより前、初めてお前を見た時から、オレはお前にすっかり興味を奪われていたんだ。

 天女の瞳が、オレを映す。
 真っ直ぐなそれが揺らぎ、桜色の唇が微かに震える。


「・・・・・・わ・・・たし・・・・・・・・」


 あの日と同じ。
 いやそれよりもずっと嬉しそうに。
 今にも泣き出しそうな瞳で、望美は笑った。



「わたし、あなたに会いに来たんだよ。ヒノエくん」



 同じ言葉、同じ場所。
 二度目の出会いも、桜は変わらずに。

 艶やかに、儚げに、舞落ちていく。





続く
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