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「QuinRose」
アリスシリーズ

恋になるまであと0秒 side Alice(ダイヤの国、転職成功エンド後、グレアリ)

 ←「こはる」(ノルン・駆悲恋エンド後) →アライブ・モメント(鷹撫)
「だーかーら!男なんて結局、そこに愛情があろうがなかろうが、キスとかできちゃうものなの!よく言うでしょ、ベッドの中の男の言葉は信じちゃダメだって」
「ええ、でもほら、体は許しても、本命以外にはキスをしない、とかいうタイプもいると思うんだけどなあ」
「本命以外にも体はOKって時点で、ちょっとどうかと思うけど」
「そこはもうしょうがないっていうか。男は浮気するもの、とかなんとか言うじゃない。恋人の浮気を寛大に許すのも、女の甲斐性・・・・・・ってね」
「うわっ、ありえない。私だったら絶対許せないな、浮気なんて。前の彼氏の時にね・・・・・・」

 目の前で話題に尽きることなく盛り上がる同僚達の様子を苦笑で見つめ、アリスは手に持ったカップを口元へと運んだ。駅の職員用スペースには大人数が利用できる食堂のほか、少人数で使える専用休憩室があり、そこで飲食もできるようになっている。
 帽子屋屋敷を文字通り死ぬ思いで飛び出してから、どれくらいの時間が過ぎたのか。駅へと腰を落ち着けることとなったアリスは、今、駅のカウンタースタッフ見習いとして働いている。だいぶ仕事にも慣れ、同僚達とも打ち解け、今ではこうして休憩時間にそろってお茶をしながら話をすることも多くなったほどだ。
 それはそれでいいことだと思うし、素直に楽しいとは思うが・・・・・・少しだけ困るとすれば、女同士の話題で高確率で上がってくる「恋愛話」だろう。正直、恋愛とはなるべく無縁でいたいというのが本音のアリスからしてみれば、こういう話の時は、なるべく存在感を消して聞き役に徹していたい。
 けれどそれで見逃してもらえるほど、女同士の集まりは甘くないわけで。

「ねえ、アリスはどう思う?」

 にこやかに向けられた矛先に、アリスは食べようとしていたクッキーを危うく詰まらせかけた。
 ローテーブルを挟んで向けられる同僚の視線が、楽しそうだ。今はもう個々の顔が判別できるほどに仲良くなった相手。適当に誤魔化したり逃げることを、そう簡単には許してくれない。

「ずばり!男は愛がなくてもキスができちゃうものだと思うか。アリスは否定派?それとも肯定派?」
「・・・・・・知らないわよ、そんなこと。語れるほど、誰かと付き合ったこととかないもの」
「えええええええ~~~つまらない!本当に何もないの?駅長とかボリスさんとかグレイさんとか、他にもいっぱい、役持ちの人達と仲良くしているじゃない」
「仲良く・・・・・・」

 その言葉に、記憶をいろいろと掘り起こしてみる。あんまりここに来るなだのなんだのと理由をつけられては追い返されたり、遊ぼうと言っては試作品のジェットエンジンだかなんだかが搭載された荷物運搬カートに二人乗りさせられて死ぬ思いをしたり、ちょっと後をつけていったらナイフを首につきつけられたり。あれを仲良く、というのであれば、アリスとしては彼らと少し距離を置きたいところだ。
 若干遠い目をしたアリスに気が付いた様子もなく、同僚達は楽しそうに少し身を乗り出した。

「そうよ!誰かと進展あったり、何かなかったの?あなた、ここに滞在するようになるまでも、よく駅に来ていたでしょう。あれって、誰かお目当てがいたからじゃないの?」
「気になる相手とかいないの?グレイさんとか、最初のうち結構後を追いかけたりしていたみたいだけど・・・・・・」

 グレイ、という言葉に、アリスの脳内をある光景がフラッシュバックした。
 不意に近づいた切れ長の琥珀色の瞳。それが伏せられたと思った瞬間、唇に感じた柔らかさ。


『誰にでもってわけじゃない・・・・・・って言ったら、いきなりキスしても許してくれるか?』


「っ!!!!な、ないないない!!!あんなのただの最高に性質の悪い嫌がらせよ、人のことからかって楽しんでるのよっ!!!!」
「え?」
「なになに?なんかあったの?」
「!?な、なんでもない・・・・・・気にしないで」

 一気に熱くなった顔を誤魔化すように俯かせる。興奮で浮き上がりかけた腰をソファに再び沈め、気を取り直すようにアリスは軽く咳払いをした。
 ・・・・・・ほんの二時間帯ほど前のことが、頭から離れない。あんなもの、ただからかっただけに違いないなんて思っているはずなのに、思い出すだけで心臓が落ち着かない。

 グレイに、キスをされた。

 彼がどういうつもりでそんなことをしたのか、考えても考えてもアリスにはわからない。だってグレイはそれまでずっと、アリスのことを子供扱いしていたし、嫌味なほどに「対象外」だなんだと失礼なことばかり言っていたというのに。
 暗殺者をやめると決意したのはまだわかるとしても、アリスにまで興味を持つようになったなんて、どういう心境の変化なのか。グレイが振り向くような絶世の美女というわけでもスタイル抜群なわけでもない。余所者という珍しさはあるけれど、他は面白みも可愛げもない性格だろうと自分でも認識している。正直、からかわれているか、ほんの気まぐれでちょっかいをかけてきたようにしか思えない。
 ・・・・・・そう思うと、なんだかとても腹立たしい。グレイにそんな安上がりな女とでも見られているのだろうか。考えれば考えるほどに、アリスのイライラは募った。

「・・・・・・愛してなくても、キスくらい簡単にできちゃうんじゃないの?男なんて」

 人の唇を簡単に奪っておいて、からかうように笑ってみせた男。その顔を思い出しながら、ぶすっと言葉を吐き捨てる。
 最低だ。好きでもないくせに、思わせぶりにキスできてしまうグレイも。そんなことわかっているはずなのに、どこかでちょっと期待してドキドキしてしまっているアリス自身も。・・・・・・馬鹿馬鹿しくて、最低だ。


「随分と実感のこもった言葉だな。過去に男で失敗でもしたのか?」


 途端、後ろから聞こえてきた声にアリスは飛び上がらんばかりに驚いた。
 勢いよく振り返った先には、まさにさっきまで思い浮かべていた相手が、ドアの前に立っていた。駅員の服に身を包んだグレイは、窮屈そうに胸元のネクタイを緩めながら休憩室の中へと入ってくる。
 突然の乱入に他の同僚も目を丸くして固まる中、いち早く立ち直ったアリスが慌ててグレイに食ってかかった。

「ぐ、ぐぐぐぐグレイ!?いつからそこに!!?」
「あ?今来たところだ。中からあんたの声が聞こえたから、ちょうどいいと思ってな。アリス、あんた確かしばらく休みだろ?」
「・・・・・・なんで私のシフト知ってるのよ」
「ナイトメアがあまりにも従業員の雇用管理に無頓着だから、俺が代わりにやってんだよ。ったくあのガキ、今までどんだけ適当に申請通してやがったんだ・・・・・・」

 実に納得の答えに、ああとアリスはひとつ頷く。まだ働き始めて数時間帯、見習いという立場なはずなのに、すでに漂うグレイの有能補佐官っぷりには脱帽する。
 ひとまず詳しくは話を聞かれていなかったようだとグレイの態度から判断し、アリスはほっと息を吐いた。先ほどアリスが口にしてしまった言葉が、誰のことを指しているかなんて、グレイは夢にも思っていないに違いない。
 ・・・・・・それはそれで、複雑な思いもあるけれど。

「ああ、それでだ。あんた、次の時間帯、空いてるなら俺に付き合え。どうせ暇だろう?」
「素直に行きたくなくなるような誘い方やめてくれる?」
「いいじゃねえか。あんたと一緒だと、いろいろ発見があって飽きねえんだよ。付き合ってくれって」

 少し強引で乱暴な誘い方だけど、人の気を悪くさせない誘いに、アリスは唇を尖らせる。
 本当に、この人はずるい。本音が読めないことに、イライラする。興味がないと言いながら、からかうようにちょっかいをかけてきたり、かと思えば助けてくれたり。・・・・・・振り回されてばかり、だ。
 どこか子供が拗ねるのに似た気持ちのまま、結局アリスはこくりと、ひとつ頷いた。





 駅の構内にあるバザールは、今日も多くの人でにぎわっていた。夕暮れの作り物の空が輝く下を、グレイと並んで屋台を見て歩く。
 相変わらず目立つグレイはあちこちから声をかけられていたが、特に気にした様子もなく、真剣な目で野菜やら果物やらを見繕っている。おそらくはまたナイトメアに食べさせる料理の材料だろう。いつも通りといったグレイとは反対に、落ち着かないのはアリスの方だ。

「兄さん兄さん、そこの可愛い恋人に、アイスクリームでも買ってあげたらどうだい?うちのはフルーツたっぷり使っていて、女性に大人気なんだよ!」
「あら、それよりうちのタピオカドリンクなんてどう?カップル専用のサービスも用意してるよ!」
「・・・・・・だ、そうだが。アリス、何か食べるか?」
「い、いい!大丈夫!私のことは気にしないでいいから、さっさと買い物を済ませちゃいましょう!」

 含み笑いを浮かべるグレイの腕を引いて、その場を急ぎ足で離れる。もう何度目だろう。グレイと恋人同士と間違われ、売り子から大声で呼び込みを受けるのは。男女が並んで歩いていたら、ある意味当然といえば当然の呼び込み文句なのかもしれないが・・・・・・いたたまれない。
 グレイと一緒に歩くことは前にもあったが、その時はこんな風に間違われることもなかった。それもそうだろうとアリスは思う。クローバーの国にいたグレイよりは若いとは言え、グレイは背も高くて大人っぽい。アリスが並んだところで、せいぜい「似ていない兄妹」か「保護者と被保護者」がいいところに違いない。
 それが、今になって恋人だなんて、間違われるようになったのは。

「・・・・・・グレイ、ちょっと近すぎない?」
「そうか?俺はあんたが迷子にならないように、肩を抱いてやっているだけだぜ」
「迷子になんてならないわよ!そこまで子供じゃないわ。いいから、は・な・し・て!」
「断る。あんたが素直に俺の腕に掴まろうとしないから、仕方なく俺が抱いてやってるんじゃねえか。ああ、なんだ。それとも手でも繋ぎたかったか?いいぜ、お望みなら恋人繋ぎでもしてやろうか?」
「~~~~~~~っ!!絶対に!繋がない!!」

 なら大人しく諦めろ、なんて言葉にアリスは頬をむくれさせた。肩に置かれた大きな手が、ぬくもりが、やたらと落ち着かない気分にさせる。時折軽く力が込められて引き寄せられたかと思えば、アリスの傍を急ぎ足で駆ける人が通り過ぎて行ったりと、ちゃんと彼女をエスコートしてくれているところが、ますます腹立たしい。
 最初は「人が多いから、俺の腕に掴まっとけ」と言われたのだが、それはちょっととアリスが遠慮した途端、有無を言わせずにこの状態だ。こんな風に堂々と肩を抱かれた状態で道を歩いていれば、それは売り子も勘違いするだろう。
 ・・・・・・グレイが悪い。勘違いされるようなことをする、グレイが全面的に悪い、はずだ。

「大体、ここに住んでいるのに迷子の心配なんてする必要ないでしょう。万が一はぐれちゃったとしても、自分の部屋とか駅長室とか、知っている場所まで自力で戻ってこれるわ。エースじゃないんだし。だからずっとこんなことしていなくても」
「ったく、あんたは男の心情っつーものが全然わかってねえな。そんなもん、決まってるだろ」

 これ見よがしに溜息を吐いたグレイに、引き寄せられる。
 覗き込む琥珀色の瞳が近すぎて、アリスは思わず息を止めた。爬虫類に似た、無感情な目だと思う。真っ直ぐに見つめられると、自分が獲物になったようにも錯覚する。どこか怖くて、逃げ出したいのに目を逸らせない。


「あんたを片時も離したくないから」
「!?」
「・・・・・・って、言ったらどうする?」


 くくっ、と。人の悪そうな笑みを浮かべて、グレイの顔が離れる。
 またからかわれたのかと理解すると同時に、あのキスされた時のことが一気に頭に蘇った。結局、グレイはアリスをからかって楽しんでいるだけだ。何も本心からの言葉なんてない。
 ・・・・・・思わせぶりな言葉にうろたえて、それを必死で隠そうとあがく馬鹿な小娘のことを、嘲笑っているだけに決まっている。

「・・・・・・好きでもない相手にキスできるような男の言葉、信用するわけないでしょう」

 アリスが思ったよりずっと、唇から出た言葉は冷たい響きを持っていた。ずっと感じていたイライラが、どんどん明確な怒りへと変わっていく。もういい加減、からかわれて振り回されるのは御免だった。
 グレイが少し、意外そうに目を瞠る。が、それもほんの一瞬のこと。彼の口元にはすぐに、どこか馬鹿にしたような笑みが浮かんだ。

「それはまた、男に免疫がないカマトト女が口にしそうな台詞だな」
「なっ!!」
「他の役持ちを手玉にとって、なんだかんだと好かれているわりには、男慣れしていない態度が多いとは思ってたが・・・・・・前にキスした時の過剰反応と言い、もしかして、あれが初めてだったか?俺が、あんたの初めての男だった、とか?」

 その言葉に、カチンと、何かが頭の中で鳴ったような気がした。
 勝ち誇ったような、なんだか嬉しそうにも見える態度が、本気で腹立たしい。同僚達が話していたことが、頭の中をぐるぐると回る。男は、愛がなくてもキスができるもの。これほど真実味を帯びて実感するハメになるとは、まさか予想していなかった。

 あのキスは、やはりグレイにとってどうでもいいことだった。遊びとからかいの延長だった。
 アリスだけが、気にして、意識して。本当に、馬鹿みたいだ。

「自意識過剰も大概にしてもらえる?付き合ってた人ならいたし、キスだってあなたが初めてなんかじゃないわ」

 何も嘘はついていない。でも、わざわざ嫌味ったらしく口にすることではなかっただろうとも思う。口にしてすぐに、アリスは自己嫌悪に顔を俯かせた。子供っぽい。そして、どうしようもなく、嫌な女だ。
 「そうかよ」と短い言葉が聞こえ、するりと肩に置かれていた手が離れた。すぐ近くにあった温もりが消え、わずかな距離が空く。

「なら、たかがキスひとつでぐだぐだ言ってんじゃねえよ。面倒くさい女と思われるぞ」

 隣にあった彼の姿が、数歩先を歩く。大きな背中が、まるでもうアリスには興味がないと言っているように見えて、少女はぐっと唇を噛んだ。
 近づいたと、近づけたと、思っていた。帽子屋屋敷から逃げるのを助けてくれた時、買い物や料理に付き合うのを許してくれた時、転職するか悩んでいた彼にほんのわずか寄り添わせてくれた時。クローバーの国とは違う形で、ダイヤの国のグレイとも、また関係を築きなおせたと思っていたのに。
 目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。油断すれば泣き出してしまいそうな衝動を、アリスは必死で飲み込んだ。
 わかりあえない価値観や考えがあるのは当然だと頭ではわかっているのに、感情が追い付かない。彼の気持ちがわからないことが、どうしてだろう、ひどくつらい。グレイが同じ気持ちでいてくれないことに、子供のように拗ねて、悔しがって、怒っている。


 近づけたと思ったのは、自分だけだったのだろうか。あのキスを意識したのは、自分だけだったのだろうか。
 ・・・・・・唇へのキスに、意味や理由を求めては、いけないのだろうか。


 ぐるぐるとしたまとまらない考えに、どんどん嵌っていく。こうなると浮上に時間がかかるということは、アリス自身が一番わかっていることだった。
 もういっそこのまま、はぐれたフリをして逃げてしまおうかと思った途端、不意にグレイが何か言いたげに振り向いた。突然のことで取り繕うことのできなかったアリスの顔を見ると、彼の表情がぎょっとしたものに変わる。
 とっさに誤魔化そうと口を開く前に、アリスの片手が少し乱暴に掴まれた。そのままぐいと引っ張られ、彼女は大股で歩く背中に慌てて声をあげた。

「ちょ、ちょっと何!?」
「黙っとけ。こんな人通りの多い場所で、なんつー顔してんだ」

 歩幅の違うペースに転びそうになりながら、何とか小走りでグレイの後に続く。いっそ腕を振り払って回れ右で逃げてしまいたかったけれど、さすが元暗殺者というべきか、そんな隙も与えてくれない。
 少し行った先の裏路地へと、グレイは迷わず足を進める。中ほどまで行ったあたり、メインストリートのあたりからはあまり見えない位置にまでくると、ようやくグレイは足を止め、アリスを振り返った。
 あまりに歩くのが早いから怒っているのかと思ったのだが、予想に反して、グレイの表情は気まずいものを見るような、ひどく困惑したものに見えた。

「あー・・・・・・その、なんだ。もしかして、前の男に、よほど嫌な目に遭わされたのか?」
「・・・・・・は?」

 罰が悪そうに視線を外しながら聞かれたことに、アリスは泣きそうだったことも忘れて目を瞬かせた。
 まじまじと高い位置にある彼の顔を見つめる。握ったままだった手を離し、グレイは少し言いよどむように、何度か口を開けては閉じてを繰り返した。

「なんで、そういう話になるのよ」
「じゃあ、どうして今にも泣きそうな顔してる。さっき、前に付き合ってた男のことを話してただろう。そいつにされたことでも思い出したんじゃないのか?」

 自分が原因だとは思わないのかしら、この人。
 思わずグレイを見つめる視線に呆れが混じってしまう。それをどう勘違いしたのか、グレイがますます気まずそうな皺を眉間に寄せ、小さくため息を吐いた。

「もし、そうなら悪いことしたな。別にあんたに嫌なことを思い出させるつもりはなかったんだが・・・・・・だから、なんだ、泣くんじゃねえよ。あんなところで泣かれたら、俺が泣かせたみたいだろ」
「・・・・・・事実、グレイのせいだもの。あと別に泣いてない」
「なんで俺のせいなんだよ。大体・・・・・・、っ、ああくっそ!わかった、わかったからその顔なんとかしろ!飴でもなんでも好きなもん買ってやるから。な?」

 ぽんと頭に置かれた手が、慰めるようにアリスの髪を撫でる。子供をあやすような仕草、それに言葉。普段だったらまた子供扱いしてと不満に思うようなことなのに、今は不思議と胸の中にあった悲しみがすっと軽くなったような気がした。
 確かにそこには、アリスへの気遣いが感じられる。泣きそうなアリスを本当に心配して、気遣っていてくれる。それがこのワンダーランドで、誰もアリスを知らないところから始まったリセットされた関係性の中で、どれほど嬉しくて幸せなことなのか。今のアリスには、身に染みてわかることだ。
 近づけていないわけじゃない。興味を持たれていないわけじゃない。ちゃんと、気にしてもらえている。
 ・・・・・・それだけで、随分と救われたような気持ちになる。

「ねえ、グレイは・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・なんでもない」

 グレイは、好きでもない人にキスができる?
 問いかけたかった言葉を飲み込む。そんなもの聞いたところで、きっと答えは決まっている。彼が平然と、アリスに接しているのが、何よりも明確な答えだ。
 それに、答えを聞いてどうするのだろう。同じ問いかけを、アリス自身にも投げかける。答えは、「No」だと思う。好きでもない相手にキスができるほど、軽い女じゃない。

 だけどそれなら・・・・・・グレイにキスされて、驚いて、なのに特にそのことに傷つくでもなく受け入れている自分は。
 ――グレイが、好き、ということなのだろうか。

 そう考えてしまうと、わからなくなる。人を好きになったことがないわけじゃない。初恋というわけでもない。誰かを好きになるという感情がどういうものか、ちゃんと知ったつもりでいた。
 ・・・・・・こんなにも、今の気持ちは、ぐちゃぐちゃでわからないものなのに。

 手を少し伸ばして、きゅっと軽くグレイのコートを握った。
 クローバーの国では、知り合いで友人の一人でもあったけれど、そこまで長い付き合いではなかった。アリスがグレイのことで、知っていることは少ない。元暗殺者で、大人で、優秀で・・・・・・遠い遠い世界にいる人のよう。こうして服の端っこだけでも掴めていられるのが、奇跡と思えるほど、彼はアリスから見ると遠く感じる。
 遠すぎて、わからない。それがとても、寂しい。近づこうとすれば、一気に遠ざかってしまいそうで・・・・・・怖くもある。

「・・・・・・グレイ」
「だからなんだよ」
「お腹、すいた」
「は?」
「お腹がすいたのよ。ちょっと休憩しましょう。最近ちょっと気になる店があったから、付き合ってちょうだい」
「そ、そうか?別にいいが・・・・・・泣きそうになってたと思えば、次に言うことが腹減った、とは・・・・・・ガキだな、やっぱ」
「何か言った?」
「何でもねえよ。・・・・・・女とガキはわからねえもんだな、としみじみ思っただけだ」

 半ば無理やり貼り付けた笑顔で、アリスはグレイの手に自分から片手を重ねた。グレイに連れられて歩いた道を、今度はアリスが彼の手を引いて戻っていく。
 大丈夫、笑えている。大丈夫、何もわからないフリ、できている。

 子供扱いなんて嫌だし、そんなに子供じゃないと反発したい気持ちは強い。
 でも、このぐちゃぐちゃな感情の整理をつけるまでは・・・・・・何もわからない、子供のままでいい。それでまだ少し、逃げる理由ができるのなら。この甘苦い感情の名前を、明確にすることができるまでは。

 遠い遠い彼との距離を、縮めることができたのだと、少しでも自信を持って言えるようになるまでは。
 キスの意味を求めない、子供でいられたらと願った。



 そんなことを思っている時点で、すでにそれは「 」というのだと。
 教えてくれる時間は、ゆっくりと前に進んでいく。





End.
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