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「お題もの」
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君の名は誰かが呼ぶ為に(CZ、レイン→撫子)

 ←ふとした恋の一瞬~理一郎ver~ →ツッコミが追い付かない
 僕に、その名を呼ぶ資格はないだろう。
 僕に、覚えていてもらう価値など、ないのだろう。



「・・・・・・えーっと、撫子くん?なんです、これ?」
「ふんふん・・・・・・この香ばしい生地の匂い・・・・・・カスタード臭・・・・・・粉砂糖のほの甘い匂い・・・・・・シュークリームか!?」
「中身見ないのによくわかりますねー。君、匂いの感知機能なんてついてないでしょー?」
「・・・・・・しかも正解っていうのがすごいわよね」

 やや呆れたため息をついた撫子くんが、腕に抱えたバスケットを覆う白い布をめくる。そこには確かにおいしそうなシュークリームがいくつも詰め込まれていた。
 甘く香ばしい匂いがふわりと香る。それを僕に差し出した撫子くんは、「差し入れよ!」と少し早口で告げた。

「鷹斗に頼んで、一緒に作らせてもらったんだけど、作りすぎちゃって」
「キングと?へー、それはそれは・・・・・」
「・・・・・・・爆発しなかったことが奇跡だな」

 僕が言いかけて止めた言葉をカエルくんが引き取る。キングに調理器具を持たせる=爆発騒ぎが方程式化しているのに、今日はどうにも静かだった。本当に奇跡に近い。
 撫子くんもわかっているのか、少し困った笑みを浮かべただけだった。

「まあ、ちょっと大変だったんだけど・・・・・・円も手伝ってくれたし、なんとか」
「手伝ったあ!?あのビショップがか!?」
「へー、それはまー、また意外な面子ですねー。政府の上層部がそろってシュークリーム作りとか、なかなか見られる光景じゃないですよー」
「最初は円も止めるつもりだったみたいなんだけど、鷹斗に根負けしたみたいで・・・・・せめて被害を最小限にするために、ってものすごく不本意そうな顔しながら、厳しくあれこれダメ出ししてくれたわ・・・・・」
「あー・・・・・・ものすっごく想像つきますねー」
「そのおかげで、初めて作ったわりにはおいしそうなシュークリームができたんだけどね」

 そう言って見下ろすシュークリームは、確かに既製品のような出来栄えだった。ふんわりサックリした焼き加減の生地は、見ているだけで食欲をそそる。
 さすがあの英家の次男だっただけある。料理が得意なのは今は別れ別れとなった兄の方だったと記憶しているが、円くんの類稀なる器用さは料理にも如何なく発揮されているらしい。


「おいしそう、ですねー。ありがとうございます、ちょうどお腹がすいていたんですよー」
「本当?なら、ちょうどよかったわ」


 半ば社交辞令的な言葉を笑顔に乗せてやれば、撫子くんはパッと顔を輝かせた。口調はそっけなさを装っているが、口元に浮かぶ微笑みが隠せていない。少し俯いた頬が、僅かに赤らんでいる。
 ・・・・・・そんな純粋さが、僕にはちょっと眩しい。素直でどこか微笑ましい感情なんて、どこかの過去に捨ててきてしまった僕からしてみれば、明るすぎて直視できない。
 彼女の飾りない笑みに、ふと遠くの面影が重なった気がした。

「そ、それじゃあ、渡したから!私はこれで・・・・・」
「・・・・・ねえ、撫子くん。君、今から暇ですか?」
「え?」
「折角なんで、一緒にお茶でもしましょうよー。こんないっぱい、僕ひとりじゃとても食べきれないですからー」

 踵を返しかけた彼女にそう声をかけたのは、ただの気まぐれにすぎない・・・・・のだと思う。深い意味はないと断言できない微妙な感情があったのも、否定はできない。
 一瞬重なった気がした面影をもう一度見たかったのかもしれない。その姿が僕から離れていく姿を、ほんの少し寂しいと思ったのかもしれない。
 自分自身のセンチメンタルな揺らぎなんてよくわかりはしなかったけれど・・・・・・ただなんとなく、もうちょっとだけ、彼女と話をしたいなと思ったのは、事実で。

「・・・・・・それじゃあ、お邪魔するわ」

 そう素直に頷いてくれた少女に、僕が向けることのできるものと言えば、いつもの少しだけ距離を置いた仮面みたいな笑顔とおざなりの「ありがとう」くらいだった。



 感情がないわけではないのだと思う。わからないわけでもないのだと思う。
 ただ、昔から僕はちょっとばかり人とずれていた。子供のくせに大人びてみせて、自分が周囲の他の子供よりは遙かにデキがよかったことを驕って、誰かとラインを引きながら付き合うことを当たり前のようにやっていた。
 子供心に覚えたことは、作り笑いとうわべの言葉。家族以外の人間と接する時、僕は無意識にそうやっていた。そのことに何の疑問も覚えたことはなかった。

 そんな僕と正反対だったのは、妹のレイチェルだった。
 あの子は僕と違って誰にでも素直で、明るくて・・・・・・たまに心配になってしまうほどだったから、僕がレイチェルを守らなければと思っていた。守って、あげたかった。
 ・・・・・・他の誰かに心を開けない僕を心配していたのは、レイチェルだった。僕を「普通」の兄として素直に慕ってくれたのは、レイチェルだった。
 あの子の手を引いている時、僕は誰よりも普通のお兄ちゃんでいられた気がした。レイチェルと家族と過ごす日々は温かく、ごく平凡な家庭にすぎなくて・・・・・家族で囲んだ夕食時の暖炉の炎は、今も記憶の片隅に優しく輝いている。

 ・・・・・・・レイチェルが死んだその時、すべては壊れてしまった。
 家族が壊れた。日常が壊れた。僕の世界は、そこで止まった。


「・・・・・・似てない、ですよねえ」
「え?誰に?」
「いえいえ~大したことじゃないですよ。ただちょっと、撫子くんが知り合いに似ている気がしただけですー」


 ほおばっていたシュークリームを飲み込んで首を傾げた撫子くんに、なんでもないような笑顔で首を振る。
 もうひとつと手を伸ばしたシュークリームを口に運んでいく彼女は、さすが九楼財閥の令嬢だけあって上品な食べ方をする。
 まあ・・・・・・口の端にカスタードが少しばかりくっついてしまっているのは、愛嬌と言えばそうだろうか。見かけは22歳の立派な女性だというのに、そういうところは子供みたいだ。

(実際、子供でしたっけねー)

 この22歳の女性の体の中にいるのは、12歳の少女の人格。同調のおかげで精神年齢的には随分と大人に近くなってはいるが、本質は背伸びしたがっていた子供のままだ。
 ・・・・・・だから、だろうか。
 大人になった彼女の姿に、幼いレイチェルの面影を未だに見てしまうのは。

「私、レインの知り合いとそんなに似ている?」
「いえ、本当は似ていないはずなんですけどねー・・・・・何ででしょう。撫子くんを見ていると、妙に思い出すんですよ」

 考えるまでもなく、全然似ていないはずだ。生粋のアメリカ人であるレイチェルと日本人の撫子は、何から何まで違う。
 レイチェルはもう少し明るく活発的な女の子だったし、話す言語だって何もかも・・・・・・・同じ点、なんて立場くらいだろうか。レイチェルのための物語となるはずだった、奇跡のヒロイン・・・・・・・それがただ、彼女になったというだけ、ただそれだけだ。


 僕の目的のために、僕が仕立て上げた代役のヒロイン。
 可哀想な被害者であり、この物語の引き金に欠かせないキーパーソン。


「・・・・・・大切な人なのね」
「え?」
「あ、えっと勘違いだったらごめんなさい。なんとなく、その人のことを話すレインの目が、とても優しい気がしたから」

 思いがけない言葉に目を瞬かせる。
 事実であり、けれどどこか違和感を覚える響きだ。人から改めて言われると、余計にその異色さが自分の中で膨らんでいく。
 僅かな笑みが口元に浮かぶ。きっとそれは、自嘲から出たものだったろう。「大切な人」。そんな綺麗な言葉だけで片づけられない、僕自身のやっかいさに対して。

「・・・・・・そう、ですねー。大切ですよ。もうろくに顔も覚えてないですけど」
「レイン?」
「ああ、顔も覚えてないっていうのは少し違いますか。顔はわかります。写真を見れば、思い出せる。でも、写真以外の表情を思い出せないんですよ。薄い霧がかかっているみたいに、いつだって曖昧なんです」

 目の前の少女の顔が、悲しげに歪む。大きな瞳の中に映る僕は、ひどく冷めた笑みを浮かべていた。
 ・・・・・・別になんていうことはない。多分、当たり前のことだ。人は忘れる、ただそれだけ。
 僕が人体蘇生という禁忌の領域に研究を進めたきっかけとなった、大切な大切な妹。
 もう一度会いたいと望み、あの子の死を受け入れて平然としていられる世界なんて壊れてもいいと思ったほどに大切・・・・・・そのはず、なのに。

 記憶の中に残るレイチェルの面影は、いくつもの思い出は、時間とともに薄れていった。

 僕が研究を続ける最大の目的は、「レイチェルを生き返らせること」から変わってしまった。今の僕が望むのは、人間が神を越える瞬間を見届けること。鷹斗くんが、人智を超えた存在となるその時を近くで見てみたい・・・・・そんな研究者の性が反映された自己満足のために過ぎない。
 よくもまあ、それで「大切な存在」だなんて言えるものだと自分で可笑しくなってしまう。
 その割には、顔もろくに思い出せない。そんなひどい兄なのに。

(Time heals griefs・・・時が経てば悲しみは癒えるもの。それでも僕は、覚えていたかった)

 そんなふうに作られた「人間」というものが嫌いだ。
 忘れることで前に進む時間。忘れることで生きていける。それを当たり前と享受する、こんな世界を僕は、


「でも、そんなの・・・・・寂しいじゃない。私は、忘れたくない」


 言葉を探しながら、撫子くんは少し俯き加減で呟いた。
 幼さのどこか残るその目に映る必死さが、何に対してのものかはわからない。忘れたくないものは、なんだろう。時を止められて朽ちていくだけとなった彼女が生まれた時間軸のことか、そこに残る家族や友人のことか、思い出か・・・・・あるいは、この壊れた世界とそこに生きる僕らのことか。

「あー・・・・・すみません。なんか暗い雰囲気になっちゃいましたね。別にそんなつもりじゃなかったんですよー。ほらほら、折角のお茶会なんですから、楽しくやりましょうよー、ね?」
「まったくだぜ。いつまでも辛気くせー話してるから、紅茶がすっかり冷めちまっただろ。おいレイン、責任とって淹れ直せ!」
「カエルくん、まさか君、紅茶飲むとか言いませんよね?・・・・シミになるだけなんで、やめてくださいよー」

 物言いたそうな彼女の言葉を遮り、無理やり話題を変える。珍しく、失敗した気がする。こんな本音を垣間見せるようなこと、言うつもりなんてなかったのに。
 わざとらしいほどに明るい口調に、静かな咎めるような視線が向けられる。
 嘘を許してくれそうもない真っ直ぐな瞳に、ちょっと困った笑いが零れた。


「・・・・・・・本当に気にしないでくださいってー。僕もちょっと疲れてたんですかねえ、変なこと言っちゃいました。実はこう見えて最近忙しくて・・・・・」
「知ってるわ。だから、気になったんじゃない・・・・・」
「へ?」
「なんでもないっ!ほら、レインも食べて!おいしそうって言ったくせに、全然食べてないじゃない。折角作ってきたのに・・・・・」


 なぜか急にムスッと顔を膨れさせた撫子くんが、テーブルの上に積まれたカスタードを手に取る。先ほど見せた上品さはどこへやら、乱暴にかぶりつくその姿は、なんというか・・・・まるっきりやけ食いだ。

「ああ!!なるほどなーそういうわけか。お前さ、アレだろ。これ余ったからとか言っといて、実はレインのために作ったとかそういうヤツだろ?」
「っ、げほ!」
「え、そうなんですか?」
「それなのにこのバカはなんだか様子がおかしいままだし、聞こうとするとなんでもないと誤魔化すし、折角作ってきたシュークリームには未だに手も伸ばそうとしないし・・・・・で、拗ねてるってわけだ。甘酸っぱいなー」
「そ、っ・・・・・・・そういうのじゃなくて!ただ私は、この間レインを見かけた時、なんだかちょっと疲れてるみたいだったから・・・・差し入れに甘いものを、って思って・・・・・・ちょうどお菓子作りを久しぶりにやりたかったし」

 観念したようにぼそぼそ言い訳めいたことを口にする撫子くんを、物珍しいものを見るような気分で見つめる。
 目の前に積まれたシュークリーム。作るのは、結構大変だったろう。政府では比較的材料も手に入りやすい環境とは言え、使えるものは限定されてくる。

「・・・・・僕のこと、心配してくれたんですか?」
「心配しちゃいけないの?心配するのが悪い、って言ってるみたい」
「・・・・・いいえー」

 僕を心配するなんてお人よしにもほどがある、と言いかけた言葉は飲み込む。
 君を事故に遭わせたのも、違う時間軸の君がこんな壊れた世界に捕らわれた原因も、全部全部・・・・・僕のせいなのに。知らないからとは言え、無邪気なことだ。
 九楼撫子という一人の少女の人生を狂わせたのは、僕が作り上げた歪んだストーリー。
 悲劇のヒロインがその物語の作り手を心配するなんて、とても馬鹿げている。

 それでも、そんな愚かな優しさを、少しだけ愛おしく思うのは・・・・・どうしてだろう。

 テーブルの上に置かれたシュークリームに手を伸ばす。
 一口含めば、途端にカスタードクリームが口の中に広がっていく。
 ・・・・・・甘ったるい味。だけど不思議なことに、悪い気はしない。


「ありがとう、ございます」


 思いがけずにその言葉は抵抗なく口に出た。
 目の前で広がる嬉しそうな笑顔に、少しだけ、普通に笑えた気がした。





 天井が崩れ落ちる轟音に、ようやく我に返った。目の前に広がる炎はどこまでも続き、あらゆるものを焼き払う。ちりちりと肌をさす熱と目を刺激する煙が、もう終わりなんだと教えてくれる。
 ・・・・・・咎人は地獄の業火に焼かれて苦しむものと言うのであれば、これほど僕に相応しい終わりもないだろう。

 それにしても不思議なものだ。最期の時、僕が思い出すのはなんだろうと以前考えてみたことがある。
 その時はきっと、レイチェルを思い出すだろうと思っていた。あの幸せだった光景・・・・・消えてしまった過去。温かい、家族で過ごした暖炉の炎を。
 けれど実際その時になってみて、思い出したのは。


「Good luck,princess・・・」


 炎に消えた背中を思う。だいじょうぶ。彼女はもう、僕の描いたシナリオのお姫様なんかじゃない。
 きっと彼女はこれから先、自分の足で、自分の人生を生きていくだろう。この先の未来、彼女がどんな選択をして、その結果がどうなるか・・・・・・僕に、知る術はないけれど。こんな不幸な目にいっぱい遭ってしまったのだから、これから先の未来くらい、幸せであっても許されると思うから。

 シュークリームを頬張る僕を見て、嬉しそうに笑っていたあの笑顔を、当たり前のように浮かべる幸せを。
 君なら、掴めるんじゃないだろうか。



君の名は誰かが呼ぶ為に



 それはきっと、僕以外の誰か。
 君の大切な人が、呼ぶ名前。

 僕のいない世界で、物語から逃げ出したお姫様、君はどうか、普通の幸せを。

 忘れたくないと言っていた少女。
 でもきっと、君は僕を忘れる。何年も何十年も経った頃、君の中の僕は薄ぼんやりとした存在に成り下がる。
 だけど、それでいい。それがいい。君は普通の人間なのだから、忘れて未来と向き合う方がずっといい。


 臙脂色の景色の中、苦しい呼吸で繋ぎとめる命の端で、大切で懐かしい人の面影を見た。

 最後、もう一回くらいお茶会をしたかったなと後悔だけ残して。

 呼ぶ資格のない名前を、呟いた。





お題使用:
88*31
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