スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←ふとした恋の一瞬~寅之助ver~ →久々すぎる
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ  3kaku_s_L.png ネオロマ
総もくじ  3kaku_s_L.png QuinRose
総もくじ  3kaku_s_L.png オトメイト系
総もくじ  3kaku_s_L.png リジェ系
もくじ  3kaku_s_L.png その他
総もくじ  3kaku_s_L.png お題もの
  • 【ふとした恋の一瞬~寅之助ver~】へ
  • 【久々すぎる】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「QuinRose」
Clover's Little Girl Story~パパは心配性~

最強最悪、到来~前編~

 ←ふとした恋の一瞬~寅之助ver~ →久々すぎる
 足元が揺らいだ気がして、ユリウス=モンレーは時計を修理する手を止めた。
 何度も体験したことのある馴染の感覚に、ちらりと視線を窓へと向ける。どこぞの爽やか騎士を彷彿とさせるうっとうしいまでの青空に変わりはない。だが立ち上がって少し風景を見渡せば、それはつい先ほどまでいた景色とは異なっていた。
 心底憂鬱そうな溜息を吐き、眼鏡を外す。ただの引っ越しなら気にも留めないが、今回は少しばかり騒がしくなりそうな予感のする位置回りだ。
 領土主であるが故に感じる今回の引っ越しの組み合わせに軽くこめかみを押さえると同時に、ノックもなしにドアを開ける音がした。静かだった室内に、底なしに明るい声が響き渡る。


「あれ、ユリウスじゃないか!久しぶりだな!」
「・・・・・・エース・・・・・・」


 心底嫌そうにつぶやいて振り返れば、直視するのが嫌になるほど清々しい笑顔の男が立っていた。
 顔を顰めて面倒くさそうな表情を浮かべるユリウスとは対照的に、エースはひどく嬉しそうにニコニコと笑って片手をあげた。

「引っ越した早々見る顔がコイツとはな・・・・・・」
「引っ越し?ああ、そっか、引っ越したんだな!どうりでおかしいと思ったんだ。俺、クローバーの塔で迷子になっていたはずなのに、ドアを開けたらユリウスがいるんだもんな!ははっ、間違えて親切なドア開けちゃったのかと思って、ビックリしてユリウスに斬りかかっちゃいそうになったぜ!」
「・・・・・・本当に嫌になるくらい相変わらずだな、お前」

 この底なしに捻くれた性格の男が今更ちょっとやそっとで変わるわけがないとわかってはいるが、あまりに変わっていなさすぎて若干腹立たしい。
 ちらりとエースが入ってきたドアの方を見やる。開け放されたドアの向こう、普段の時計塔の廊下と異なる光景が広がっていた。緑がかった壁、広々とした廊下、クローバーの模様・・・・・・
 今回の引っ越しで、時計塔はクローバーの塔と繋がった。
 ジョーカーが主催するサーカスの時期以外では、なかなか珍しいことだった。

「・・・・・・クローバーの塔、か・・・・・面倒な・・・・・・」
「いいじゃないか、アリスに会えるんだぜ?ユリウス、会うの久しぶりだろ」
「アリスには、な。娘の方はしょっちゅう押しかけてくるぞ」
「娘?」

 きょとんと目を瞬かせるエースに、ユリウスは呆れたため息を吐く。
 アリスとグレイが結婚し、一人娘がいることは有名だ。あの夢魔の補佐官でもある有能な男が、娘を相当溺愛しているらしいということも含めて。引っ越しでしばらくアリスに会っていないユリウスですら知っているのだから、エースが知らないはずはない。
 ・・・・・・まあ、興味がないことに関してはとことん右から左に聞き流すような男でもあるから、まったくもって知らない可能性も否めないが。

「アクアのことだ。トカゲとアリスの娘の・・・・・・ジョーカーのサーカスにいる子供達よりは少し幼い、黒髪の子供だ。アリスが昔来ていたワンピースと同じような恰好をしているから、すぐにわかると思うぞ」
「うーん・・・・・・アクア、アクアねえ・・・・・・」
「・・・・・・なんだ、お前本当に知らないのか?」
「アリスに子供がいるっていうのは知ってるんだけどさ、会ったことはないかな。俺もちょっと見てみたいなって思ってるんだけど、なんかトカゲさんが俺を見かけると異常に殺気だってさあ~・・・・・いつも会わせてもらえないんだよね。なんでだろ、あはは!」
「ああ、なるほどな。理解した」

 完全に理由を納得し、ユリウスはひとつ頷く。
 引っ越しで別れていてさえ噂を耳にするほどの親バカが、このいかにも天然危険物な男を大事な娘に近づけさせるわけがない。確かにエースは、子供の成長にいろいろと悪影響すぎるだろう。

「それにしても押しかけてくるってことは、ユリウスはそのアクアって子によく会うの?引っ越しで離れてたのに?」
「ん?ああ・・・・・アリスの娘なだけあって、あいつも心臓を持っているからな。ルールに縛られない。それにまだ幼いせいか、行先を迷わないようだ。何が気に入ったのかしらないが、しょっちゅうドアを開けて私の作業場に来ていたぞ」
「・・・・・・ふーん、そう」
「エース?」

 曇りのない空が一瞬だけ陰ったような感覚が、部屋に満ちる。
 その違和感を素早く察知したユリウスが何かを問いかけるより早く、エースはいつも通りに笑ってみせた。一点の隙もない仮面の笑顔の向こう、感情の読めない紅い瞳が少し細められた。


「よしっ、決めた!俺、その子に会ってくるよ。そうと決まれば、善は急げだ。ちょうどクローバーの塔に来たわけだし、適当に歩いていれば会えるよな!」
「お、おい待てエース・・・・・・!!」
「じゃあまたなーユリウス!あ、今度何か手土産持ってくるから期待しててくれよっ!」


 言うが早いか、嵐のように去っていった騎士が、閉まる扉の向こうに消える。
 咄嗟に止めようと上げかけた手を降ろし、ユリウスは深々と溜息をつく。妙に嫌な予感が胸にまとわりついていた。こういう時は絶対にろくなことにならないと、長年エースと付き合って培われた直感が警告を発している。
 放っておこうとも思ったが、少し思い直す。普段は自分に害がない範囲でエースの暴走を放置しておくけれど、さすがに小さな子供・・・・・・しかも一時期同居していた、親しい少女の愛娘・・・・・がフラフラと遊び歩いている場所に、あんな手のかかる猛獣を野放しにしておくのは気が引ける。
 これだから誰かと関わるのは嫌なんだと一人ゴチて、ユリウスは素早くエースが出て行ったドアへと向かった。





「女の子は何でできているの?砂糖とスパイス。それにすてきなもの全部。」

 ご機嫌な唄が森に響く。近頃覚えたばかりの詩を口ずさみながら、アクアは花をひとつ二つと摘んでいく。片手に握った色とりどりの花は小さな花束と化しており、微かに香りを発している。
 少女はそれを満足げに見やり、勢いよく花畑から立ち上がった。

「ママー!!見てみて、ほら・・・・・・」

 満面の笑顔で振り返った少女の顔は、そこに求める人の姿がなかったことで固まる。
 つい先ほどまで花畑からわずかに離れた大きな木の下に座っていたはずの母親の姿が、こつ然と消えていた。母親だけでなく、確かにあったはずの木もなければ、周囲の風景が少し変わっているように思う。
 しばらくじっと辺りに目を凝らしていた少女は、ぎゅっと両手で手作りの花束を握りしめて俯いた。

「引っ越し・・・・・・?」

 母のアリスが自分に黙っていなくなるわけはないので、恐らくそうだろう。引っ越しで不安定になったせいで、たまたま母親とはぐれてしまっただけと幼いながらに冷静に考える。アクアにも何度か引っ越しの経験はあり、そういうものだと理解している。今更そのことに対して恐怖はなかった。けれど、少しの不安が引っかかった。
 明るく陰ることのない日差しが、少し曇った気がした。頬をなでる風が強めに吹き抜け、ざあっと森の木々や足元の花達がざわめく。
 鳥の声さえ消えた静けさが急に怖くなった。まるで世界にたった一人残されたような錯覚を覚え、アクアはぐっと唇を噛む。
 普段は年のわりには冷静だと褒められることも多いが、まだまだ幼い少女に過ぎない彼女に、その不安は重すぎた。


「ママ・・・・・・・パパ・・・・・・・」


 泣きそうな声で呟くと、アクアは駆け出した。
 引っ越し後は曖昧になっているから、むやみやたらと動いてはいけないという言いつけなど、すっかり頭から飛んでいた。
 ほんの一時的にはぐれてしまっただけのこと。両親と弾かれてしまったわけじゃない、と思う。今までそんなことなかったのだから、今回もそうに決まっている。それでもどうしてか、世界のすべてに置いて行かれたような不安な気持ちが消えてくれない。
 ちょっと前に同じ道を通ったときとは方向の違う小道。小さな手足を精一杯動かして、アクアはそこを駆け下りる。必死できょろきょろと木々の合間に目を走らせ、何か聞こえないかと神経を集中させる。

『・・・・・・おいで・・・・・・開けてごらん』
「あっ!!」

 やっとの思いで聞こえた「声」に、パッとアクアの表情が輝いた。
 走り続ける道の先に、誘うように立つドアが張り付いた木々が見えた。迷子のアクアに親切に話しかけてくれる、道を示してくれるドア。それが今のアクアには、何よりもの助けに思える。

『おいで、さあ・・・・・ドアを開けて』
『帰り道を教えてあげる。ドアを開ければ、おうちに帰れるよ』

 いくつもの声が響き渡る。一番望む場所に連れて行ってくれるドアに向かって、アクアは躊躇いなく小さな手を伸ばす。頭の中には、両親の優しい笑顔と住み慣れたクローバーの塔だけがあった。
 木に張り付いたドアの取っ手まで、あと数十歩といった距離まで迫った時。
 突然アクアの目の前が真っ赤なものに埋め尽くされ、勢いよく顔面から星が飛び散るような衝撃を受けた。


「きゃっ!?」
「うわっ、と・・・・・・ビックリしたあ。何かと思ったぜ」


 何の前触れもなく茂みから飛び出してきた誰かに勢いよく突っ込んだアクアは、そのまま反動で後ろにひっくり返る。思いっきり打ち付けたお尻と地面に擦られたむき出しの両肘が、じんじんと痛みを訴える。思わず泣き出しそうになるところを何とか寸前で堪え、アクアは少しだけ体を起こした。
 体格差のせいだろうが、ぶつかられた男はよろけもせずに平然とそこに立っていた。アクアを見下ろす紅い瞳が、じろじろと無遠慮に地面に転がっている小さな体を見つめる。
 真っ赤なコート、腰に差した大きな剣・・・・・・アクアが知らない人物だ。だけど、顔がある。
 警戒の色を浮かべる翡翠色の大きな瞳に気が付いて、青年が安心させるようににっこりと笑った。

「やあ、こんにちは。いきなりごめんね、まさかこんなところから女の子が飛び出してくるなんて思わなくてさ。大丈夫?怪我しなかった?」
「・・・・・・」

 気さくに笑いかけられ、アクアはきょとんと瞬きを繰り返す。その笑顔は晴れ渡った青空のように曇りなく、爽やかで感じが良さそうに見えた。こんなにも「いい人」そうに笑う人間に、アクアは今まで会ったことがない。
 差し出された手をおずおずと掴み、立ち上がる。わざわざかがみこんで服に着いた埃を払ってくれる青年は、とても悪い人には見えない。
 けれど不思議なことに、ガラス玉のような赤の瞳は誰よりも「こわい」と思った。濁っているわけではないのに、奥まで見えない。覗きこむことのできない、底なしの赤。
 ゆっくりと赤の瞳が細められた。値踏みをされているかのような感覚に、勝手に背筋に緊張が走る。


「で、こんなところで一人でどうしたの。もしかして君も、迷子なのか?」
「・・・・・・あなたは迷子なの?」


 何とかそう尋ね返すと、質問は質問で返しちゃダメだよと明るく笑われた。
 その瞬間、不思議な緊張感が一気に立ち消える。ドキドキと小さな心臓が音を早めるのをそっと抑えながら、アクアは知らずのうちに止めていた息を吐き出した。
 そう言えば、とアクアの脳裏にふと父親の顔がよぎる。父親が「絶対に近づいてはいけない大人」の一人として、よく口にしているタイプがあった。


 爽やかな笑顔の男に、ろくな人間はいない。
 特に、赤の騎士・・・・・・ハートの騎士に、絶対に近づいてはいけない。


 じっと目の前の青年を見上げる。アクアの視線に、いい人そうな男はわずかに小首を傾げてみせた。

「・・・・・・あなた、だれ?役もちの人だけど、わたしの知らない人だわ」
「ん?ああ、そっか。会うのは初めてだよな!俺は・・・・・・」

 言いかけた彼がふと口を閉じる。
 どうかしたのかとアクアが思った瞬間、先ほど青年が飛び出してきた茂みがガサガサと不穏に揺れる。それと同時に聞こえてきた恐ろしい唸り声に、恐る恐る視線を向けた。
 ・・・・・・ものすごい怒りの形相でこちらを鋭く睨みつける巨大な獣と、バッチリ視線が合った。

「・・・・・・・!!」
「あっはは、参ったなあ。クマさんと追いかけっこの途中だったこと、すっかり忘れてたぜ~」
「く、クマ・・・・・・!!」
「あれ、もしかして君もクマさん好きなのか?子供って、動物好きだもんな!」

 あまりの衝撃に言葉にならず、必死でぶんぶんとアクアは首を振る。
 確かに動物好きは否定しないが、それはあくまでもテディベアとかああいった可愛らしくデフォルトされたぬいぐるみとかに限る。目の前で今にも飛びかかってきそうな様子の熊は、どう考えても「クマさん」と呼べる可愛らしい種類ではなく、グリズリーとかあのあたりに分類されるはずの生き物だ。


「よしっ、それじゃあ君も一緒にクマさんと遊んであげようぜ!」
「え?」


 爽やかに言われたことの内容を理解するより早く、体がふわりと宙に浮く。
 青年に抱きかかえられたのだと気が付いた時には、もう周りの風景は素早く移動を始めていた。まるで小包を抱えるように片腕に持ち抱えられ、アクアの体はドアのすぐ近くからどんどんと離れていく。

「えええええええええええええ!!!?」
「はははっ、追いかけっこなんて久しぶりだなあ。今回は人数も一人増えて、クマさんも大喜びだ!」
「きっ、きゃあああああああ!!何するのよ、離して人さらいーーー!!降ろしてよお!!」
「え、今降ろしちゃうと危ないから、それはオススメしないなあ。クマさんに追いつかれちゃう」

 その言葉を裏付けるように、後ろから怒りの咆哮と地響きが耳に届く。ちらりと首を動かして見やれば、恐ろしく足の速い青年に負けないスピードで、猛烈な勢いの熊が突進してくるのが見える。
 銃弾飛び交うワンダーランドの生まれなだけあって、ある程度危険なことには幼いながらも耐性のあるアクアだが、さすがにこの手のスリルは初めてだ。怒り狂った動物に追われる恐怖をリアルに体験し、半ば本気で目に涙が浮かぶ。

「あ、ちょっと口閉じてた方がいいよ?舌噛むぜ」
「・・・・・・ふえ?」

 その言葉に青年の顔を仰ぎ見た瞬間、本日二度目の浮遊感が襲う。一気に視界が開け、そのまま景色が急降下を始める。耳元で響く風の音を感じながら見下ろした地面は、気が遠くなるほどに遠くに見える。
 ・・・・・・青年もろとも、崖から飛び降りたのだと気づくのに、数秒かかった。
 少女の悲鳴と青年の明るい笑い声が、深い森へと響き渡った。





 ・・・・・・なぜ私がこんなことをしなければならないのだ。
 何度目かわからない愚痴を心の中で呟きながら、人が何とか通れるような獣道をユリウスは歩いていた。もう少し右に行ったところに、今よりマシな舗装された道もあるというのに・・・・・・どうして究極の方向音痴が、こんな道なき道を進もうとするのだろうか。理解に苦しむ・・・・・というか一生理解したくもない心情だ。

 エースを追ってみたまではよかったものの、迷子の癖にまったく迷いない足取りで進んでいくアウトドア派の騎士相手に、基本引きこもりのユリウスが追いつけるはずもなく。
 結局ユリウスは、森のど真ん中、道とはとても言えない場所で、すっかりエースを見失ってしまった。

 行けども行けども目当ての赤いコートは見えず、どんどん狭まっていく道にユリウスの眉間の皺は深くなる。本当に外に出るとろくなことにならない。ちらりと見上げた空は、木々が覆い隠している隙間からでも、うっとうしいくらいに青々しかった。
 いい加減バカらしく思えてきて、もう引き返そうかと半ば真剣に思ってきた頃だった。

「・・・・・・声?」

 わずかに聞こえた音をたどって、ユリウスは振り返る。吹き抜ける風に乗って、女の声らしきものが聞こえた気がしたのだ。
 数瞬の後、彼は迷わず声の聞こえた方向へと足を進めた。獣道すら外れ、生い茂る草をかき分けながら歩いていく。腰の高さほどもある深い茂みをひたすら歩くうちに、声はどんどん近くなった。
 間違いなく、人間の女の声だ。誰かを呼ぶように何度も何度も繰り返し響く。
 その声を頼りにユリウスが進む先、茂みが拓けるのが見えた。いくつものドアがくっついた木々が並んでいるのが、遠目でもハッキリわかる。どうやら森の主要な小道のひとつに出たらしい。

 
「っ、アクア!!?」


 ユリウスが小道に出ると同時に、突然人影が目の前に現れる。
 ブラウンの長い毛が視界に入り、懐かしい匂いに僅かなタバコの香りが鼻腔をくすぐる。
 頭ひとつ分ほど下にある、久しぶりに会う見知った顔。少し以前より大人っぽくなった彼女は、翡翠色の瞳を不安定に揺らしながらユリウスを見上げていた。

「アリス?お前、なぜこんなところに・・・・・・」
「ユ、リウス・・・・・・・?」

 初めてこのワンダーランドに連れてこられた時のように、不安と戸惑いに満ちた瞳。それがゆっくりと落胆の色を映して、下へと伏せられた。
 まるで迷子のようなアリスの姿に、ユリウスは思わず手を伸ばす。そっとその頭に手を置けば、俯いていた彼女の肩がびくりと震えた。


「・・・・・・どうした。顔色が悪いぞ」
「ゆり、うす・・・・・・ユリウス、ユリウス・・・・・!!どうしよう、どうしよう・・・・・どうしたらいいの、アクアが・・・・・っ・・・・!!」


 すがるように、アリスの片手がユリウスの服の袖を握りしめる。
 その手は脅えるように震えていた。今にも泣きだしそうなところを堪えているのか、アリスの声はひどく張りつめ、言葉はどこか覚束ない。

「アクア、アクアが・・・・・ちょっと目を離している間に、姿が見えなくなって・・・・・どうしよう、きっとさっきの引っ越しに巻き込まれたんだわ・・・・・・私が・・・・私が、目を離したりしたから・・・・っ私のせいで・・・・・」
「おい、アリス・・・・・・」
「もし、もしアクアに何かあったら・・・・・あの子まだ小さいのに、一人でこんな森の中で・・・・・・・・きっと怖い思いしてるのに・・・・・っ!!」
「落ち着け!!!」

 少し強めに呼びかけた言葉に、弾かれたようにアリスが顔をあげる。
 涙が今にも滲みそうになっている翡翠色の瞳としっかり視線を合わせる。久しぶりに見る顔なのに、懐かしさを感じないのは、よく顔を出しにきていた少女と同じ瞳の色だからだろうか。
 やっぱり親子だな、とユリウスは頭の片隅で苦笑した。なんだかんだ言って、アクアとアリスはとても似ている。だから放っておけないのかもしれない。どちらのことも、見捨てておけないのかもしれない。


「お前は、母親だろう」
「・・・・・・!」
「今、この森で一人でいるのは誰だ?お前のことを探しているのは誰だ?取り乱して泣き出しそうになっているのは、お前じゃないだろう。後悔するなら、アクアを見つけた後にしろ。いいな」


 その言葉に少し視線を落とし、アリスはぐっと唇を噛んだ。
 そしてひとつ黙ったまま頷き、顔を上げる。決意の宿った強い視線にユリウスはもう一度だけアリスの頭を撫で、体を離した。

「・・・・・・ありがとう、ユリウス」
「私は何もしていない」

 素っ気なく告げて顔を明後日の方向に向けてしまうユリウスに、アリスが「相変わらずね」と笑う。気まずそうに視線を彷徨わせていると、ふと僅かな違和感を感じ、ユリウスは視線を一点へと止めた。
 途端、安定した気候には珍しい、少し強めの風が吹き抜けた。陽射しがゆっくりと翳り始める。
 思わず見上げた空は、青から紫へと変わりはじめ、ちらちらと星が瞬いた。

「どうしたの?」
「・・・・・・いや、何でもない。それよりも行くぞ。アクアを探すんだろう?」
「え、ユリウス一緒に探してくれるの?」
「ここでお前を置いて帰ったことが知れたら、トカゲが殺しに来そうだからな。もののついでだ」
「あ・・・・ありがとう!!」
 
 ホッとした表情を浮かべ、さっそく歩き出すアリスの後ろを歩きながら、ユリウスはちらりと先ほど違和感を感じた場所へともう一度視線を向けた。
 薄闇に隠れた地面には、いくら目をこらしても何もない。
 時間帯が変わったのであれば、それも当然だろう。多少壊れたものは元に戻り、修復不可能なほどになってしまったものは消えていく。それがこの世界の常だ。


 時間帯が変わる直前に見えたもの。
 不自然に荒らされた地面と、そこに散らばる種類も色もばらばらの無残に散った花の残骸。


 たとえそれがあったとしても、もう消えてしまったものだ。
 だけど嫌な予感がなくなりはしない。

 黒い木々の隙間から見える夜空を見上げる。
 真ん丸の明るい月が、どこか不気味に輝いていた。





Continued・・・
関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png ネオロマ
総もくじ 3kaku_s_L.png オトメイト系
総もくじ 3kaku_s_L.png リジェ系
総もくじ 3kaku_s_L.png お題もの
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ  3kaku_s_L.png ネオロマ
総もくじ  3kaku_s_L.png QuinRose
総もくじ  3kaku_s_L.png オトメイト系
総もくじ  3kaku_s_L.png リジェ系
もくじ  3kaku_s_L.png その他
総もくじ  3kaku_s_L.png お題もの
  • 【ふとした恋の一瞬~寅之助ver~】へ
  • 【久々すぎる】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ふとした恋の一瞬~寅之助ver~】へ
  • 【久々すぎる】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。