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 ←遙か5終了~ →届かないと知っていても、表現したいもの
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「オトメイト系」
CLOCK ZERO

君がいる、こんなしあわせ(鷹撫、帰還End後)

 ←遙か5終了~ →届かないと知っていても、表現したいもの
「っ、撫子!!!!」

 一気に加速した車を視界の端に確認した瞬間、思いっきり叫んだ。
 こちらを驚いた目で見つめる撫子に必死で駆け寄る。車のエンジン音がどんどん間近に迫る。一秒一秒がひどくゆっくりに思えて、自分の心臓の音が耳元で早鐘を打っているようだ。
 間に合え届けと何度も心の中で叫んで、誰よりも愛しい存在へと手を伸ばす。

 その手が温もりを掴んだ瞬間。

 車の急ブレーキ音と遠い悲鳴が、耳をつんざいた。



 彼女は、俺の世界だ。
 そんな、本の中でしか存在しないような言葉は、俺の中で真実だった。

 普通の人間と違うところがあると理解していた。ちょっと「人間」という基準から自分は外れてしまっているんだろう、と物心つく頃には理解してしまっていた。
 世界はいつもどこか無機質で、他の同い年の子達と本当の意味で馴染んだりすることができなくて、でもそれを「そういうものだ」と受け入れて・・・・・・小学生になる頃には、すでに人生への達観した諦めを抱いて生きていた。
 「うれしい」「たのしい」「きれい」「かなしい」なんとなく、そんなものはわかったから、感情がまったくないってわけじゃなかったんだろうとは思う。それでも、俺が感じていたそれは、本で覚えてなんとなく知っているような薄っぺらさがあって。特にわからなかったのは、泣くとか怒るとか。そういう激しい、俺くらいの子供になら当然あってしかるべき感情の起伏だった。

 欠けた人間。
 俺は、普通の「人間」じゃない。

 弾きだした結論は、どこか胸の奥を痛みも感じさせないまま抉り取ったけれど、俺は何でもない顔をして当たり障りなく生活を続けた。痛くない胸のぽっかりした感覚を「空虚さ」と呼ぶことに気が付かないままだった。
 同い年の子供達が「普通の子供」らしく自由に生きていることを、羨ましいとぼんやり感じつつ、俺には無理だろうと諦めていた。将来の展望も夢も描けなくて、生きている意味がよくわからなかった。
 俺がここにいる意味が。これから先の未来に存在する理由が。
 普通の人間じゃない俺の居場所が、どこにあるのか。

 ・・・・・・答えを見いだせずにいた。

 今思うと、傲慢な考え方だったと思う。
 無意識のうちに俺は、「他の人間」と「俺」なんていう見方をするのが当たり前になっていた。いつだって客観的に物事を見て、その様子を他人事のように憐れんだり微笑ましいと感じてみたり。どこか他の「人間」を下に見ているような節さえあった。
 それが傲慢だと。どこか感じていた胸の空白が、空虚だと。
 気づかせてくれたのは、彼女の存在。

 知らなかったこと、見えていなかったこと、気づかずにいた簡単な答え。
 彼女は、いろいろなことを教えてくれた。いろいろな視点で、世界を見る術を教えてくれた。

 これから先の未来に、俺のいる意味だってあるのだと。
 俺の未来の可能性を、真っ直ぐに伝えて肯定してくれた。


 その日から、世界は変わった。
 君のいる世界に、色がついた。


 俺は、普通の人間らしい感情を・・・・・・恋を、知った。



 消毒液の匂い、静かな中に聞こえる人の行きかう声、白い個室。
 白い包帯に包まれた小さな手をぎゅっと握る。確かな温もりが、冷え切った指先から伝わってきて、彼女がここにいることを教えてくれた。

「鷹斗?」

 不思議そうな声に、何でもないと首を振って小さく笑ってみせる。
 ベッドに横たわったまま、常盤色の瞳が心配そうに俺を見上げていた。

「・・・・・・ごめん」
「え?」
「ごめん、守れなくて・・・・・・ちゃんと、守ってあげられなくて、ごめん」

 握った手に、こつんと額を当てた。
 包帯に包まれた指先が、そっと俺の手の甲を撫でる。ひどく優しい感触に、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。

「そんなことない。鷹斗は私を守ってくれたわ。鷹斗がいなかったら、この程度の怪我ですまなかったもの」

 だから気にしないでと告げる言葉に、無言のまま首を振る。
 違う、違うんだ。本当だったら、もっとちゃんと守れた。撫子に怪我を負わせることなんて、なかった。だって俺は、知っていた。君が事故に遭うことを。
 ・・・・・・俺が、あのおかしな手紙をきちんと信じていれば。

 「10年後の海棠鷹斗」を名乗る人物からの、奇妙な手紙。
 そこに書かれていたのは、俺しか知りえないような事細かな情報と・・・・・撫子が事故に遭うという警告。気味の悪いそれを「ただの悪戯」と言い切ることもできなくて、一応警戒はしていた。それでも、どこか半信半疑だった感は否めない。

 そして手紙に書かれていたのとまったく同じ日時、場所で。
 撫子は、事故に遭った。

 咄嗟のことで、彼女をかばいきることはできなかった。
 何とか最悪の事態は免れたものの、彼女はそれなりの怪我を負ってしまい、しばらく意識も戻らなかった。頭や腕に巻かれた包帯を見るたび、罪悪感がこみ上げる。
 ・・・・・・警告されていたくせに、守りきれなかった。怪我を負わせてしまった。


 もし、もしも。彼女があのまま目を覚まさなかったら。
 そう思うと、体がすうっと冷える。撫子が意識不明だった間、何度も何度もそんな恐怖に脅えた。
 こうして握った掌の温かさが、冷たくなっていくところを想像して、絶望に落ちてしまいそうだった。


 一歩間違えば、撫子がもう二度と目を覚ましてくれなかったかもしれない。
 そう考えると、自分が情けなくて、悔しくて、どうしようもなく腹立たしい。怒り、という感情を俺は初めて覚えたような気がする。

「それに、謝るなら私だって同じだわ」
「?」
「鷹斗に、怪我をさせてしまったもの。私をかばったせいで・・・・・・」

 痛ましそうに顰められた視線が、俺の足へと向けられる。包帯に巻かれた右足の存在を今思い出して、ああと短く頷いた。
 こんなこと、全然大したことない。骨にヒビが入った程度だ。折れる寸前だったとかで、いかにも大仰に固定されているけれど、こんなもの撫子の怪我に比べたら大したことじゃない。歩きにくいくらいで、どうだと言うんだろう。自分のことよりも、撫子の方が心配だった。

「こんな怪我、全然大したこと、」
「大したことなの!もしかしたら、もっとひどい怪我をしていたかもしれない。私をかばった鷹斗の方が、死んでたかもしれないのよ?私のせいで、鷹斗がそんなことになったら・・・・・って思うと・・・・・」

 最後の方は消え入りそうな声音で呟き、撫子はぎゅっと唇を噛んだ。
 そのまま少し上半身を起こした彼女に驚く。急に起き上っちゃダメだよと止めかけた腕をやんわりと払って、撫子がそっと俺の頬に手を伸ばした。
 確かめるようにそっと触れた白い指先は、微かに温かく。そして、震えていた。


「よかった・・・・・・鷹斗が、無事で・・・・よかった」


 そう安堵したように言葉を紡いだ彼女が。
 ゆっくりと、花がほころぶように、浮かんだ優しい笑顔が。
 とても、綺麗、だった。

 ゆらりと視界が一瞬揺らぐ。
 なんだろうと思う間もなく、熱いものがじんと瞼の奥を刺激して、目のふちからするりとその熱が零れ落ちた。流れ落ちた熱い何かは頬を伝ううちに冷たくなって、一筋の奇妙な道筋を描いていく。
 撫子が、驚いたような表情を浮かべる。
 頬を伝った冷たさに手を伸ばして触れると、透明な水が指先を濡らしていた。


「あ、れ・・・・・・?」


 それが涙だと認識した途端、ぽろぽろと後から後から同じものが零れ落ちる。
 慌てて何度も何度も手でこすってみるけれど、一度流れた涙は止まる気配がない。呼吸が苦しくなって、目が熱くなって、胸が重苦しくて、どうしていいかわからなくなる。初めての感覚に、止め方がわからなくて戸惑ってしまう。みっともないカッコ悪いと思っても、そんな感情なんてお構いなしに涙は溢れた。

「な、んで・・・・・あ、あれ、おかしいな・・・・・ご、ごめっ・・・・みっともないとこ、みせて」
「・・・・・・こすらない方がいいわ。目が赤くなっちゃう」
「でも・・・・・・っ、撫子?」

 ごしごしと目元をぬぐっていた手を優しく掴まれたと同時に、腕を引かれた。
 突然の柔らかい感触と感じたほんのり甘い香りに、瞬間的に心臓が跳ね上がる。ぎゅっと、回された小さな手が優しく後頭部を撫でるのを感じて、彼女に抱きしめられているのだとようやく気が付いた。

「あっ、あの撫子・・・・・・・!?」
「・・・・・・大丈夫だから」

 慌てて離れようと力を込めたところで、優しく彼女が囁く。
 どこか子供に言い聞かせるような響きに、思わず力が抜けた。少しだけ見上げた彼女の表情はひどく大人びていて、いつの間に撫子はこんなに綺麗になったんだろうと見惚れてしまった。


「大丈夫・・・・・・泣いていいから・・・・・甘えたって、いいから」
「・・・・・・っ」
「私も鷹斗も・・・・・ここにいる。ちゃんと、ここにいる。もうだいじょうぶ・・・・・こわくないわ」


 優しい声に促されるように、恐る恐る手を伸ばして撫子の腰を引き寄せる。
 すぐそばで感じ、とくんとくんという音。
 腕に抱きしめている温もり。
 ・・・・・・彼女が、生きている証。
 ここに、いる。
 撫子は俺の傍にいて、ちゃんと生きて、笑って、話しかけてくれる。

 確かめるように、小さな体を力いっぱい掻き抱いた。
 折れることのないしなやかな温もりは、俺を優しく抱きしめ返してくれる。


 もし【かみさま】というものが存在して。
 それが、俺と彼女を引き合わせてくれたのなら。

 ――俺はこの瞬間を、【かみさま】に感謝する。

 この世界を、愛している。
 君が存在する、この綺麗な世界を・・・・・・誰よりも何よりも、大切で愛しく思うんだ。


 幸せを抱きしめて、俺はおそらく生まれて初めて、本気で泣いた。
 失わずにすんだ世界は、とてもとても綺麗だった。



 2021年、春。
 そしてまた、綺麗な世界が新たな色で彩られる。

 片手に握った温もりに微笑みかければ、愛しい笑顔が返ってくる。
 子供の頃には想像もできなかった未来の光景が、今は手元にある。
 相変わらずこれから先、未来の展望だとかそういうのは見えないままだし、俺は少しばかり他人とずれていて「普通」とはとても言い難いけれど。

 ・・・・・・・それでもこれが、俺にとっての「普通」で、俺の人生なんだろうと思う。

 変わったもの変わらないもの、たくさんあった。
 後悔したことだってないとは言わない。迷いもした。間違ったことだってあっただろう。だけど今こうして、少しだけ振り返ってみれば、どれもこれも大切な一瞬一瞬の積み重ねだったのだと思う。
 こうやって未来は続いていくんだろう。「今」の積み重ねが、時を進めていく。

 繋いだままの手をぎゅっと握って、ちょっと彼女を引っ張った。
 不思議そうに足を止めた撫子を引き寄せて、キスをする。ちゅっと音を立てて唇が離れると、彼女は真っ赤な顔をしてそっぽを向いてしまう。
 大人っぽくなった撫子。どんどん綺麗になって、でも変わらず俺の隣にいてくれる。


 俺の世界を輝かせてくれた人。俺だって人間なのだと教えてくれた人。
 憧れて、愛してやまない・・・・・・・・・俺の光、そのもの。


「・・・・・・・ありがとう・・・・・・」


 脈絡なく告げた心からの感謝の言葉に、やっぱりきょとんとする撫子に。
 もう一度、あいしてるの気持ちを込めて、キスをした。



 CLOCK ZERO―――それは、時を止めたいほどに愛しい時間。

 幸せすぎるその時間の先、未来にそれ以上の幸せな時間があると信じて。

 時間は止めずにいよう。「今」を大切にしていこう。

 君の手を握って、一緒に。





End.
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